No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

電動化によって、意外な部分での半導体利用が進む

さらに電動化は、意外な部分にも影響が及ぶ。現在の自動車は、例え停止している状況でも軽くハンドルを回すことができる。これは、操作を補助するパワーステアリング機構がついているからだ。既存の内燃エンジン車では、このパワーステアリング機構で補助する力に、エンジンで生み出した油圧が使われていた。また、ブレーキ操作の補助には、エンジンが空気を吸い込むときに発生する負圧が使われている。そしてエアコンも、暖房ではエンジンの排熱を、冷房ではコンプレッサーを回転させるためにエンジンの駆動力を使っていた。エンジンがなくなることで、動力源や熱源を失う機構は、驚くほど多い。

エンジンの役割に代わるのが、モーターなど電気仕掛けの機構である。例えばステアリングでは、電子操舵システム「EPS(electrical power steering)」が使われる。ハンドル操作や走行状態をセンサーで検知。そのデータを基にマイコンとパワー半導体の組み合わせで制御した駆動電流でモーターを動かして、タイヤを操舵する。つまり、半導体デバイスを湯水のように使った機構になる。ここでは、EVの動力源となるモーターほどではないが、大電流を低損失で制御するパワー半導体が数多く使われる。具体的には、高耐圧のMOS FETが使われることが多い。

「走る」「止まる」「曲がる」の制御が機械式から電子式へ

一般に、油圧や負圧など機械仕掛けの機構を電気仕掛けに変えると、車重が劇的に軽量化する。また、マイコンを使ったきめ細かい制御が可能になるため、運転が快適になり、安全性や信頼性が向上する。このため、内燃エンジン車でも、燃費の向上や安全性の向上を狙って、シフト、ブレーキ、ステアリングとどんどん電気仕掛けに代わりつつある。こうした動きは、人と自動車の間を電線でつないで操作することから「バイワイヤー化」と呼ばれている。

バイワイヤー化によって、自動車の基本的な機能である「走る」「止まる」「曲がる」をすべて電子制御することになる。このため、この次に紹介する先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術を発展させる素地となっている。

自動運転時代の幕開け

ここからは、にわかに現実味を帯びてきた自動運転によって、どのような半導体デバイスが求められるか見てみよう。

これまでの自動車は、1968年に決められた「自動車は運転者によって制御されなければならない」ことを明記したウイーン交通条約に沿って開発されてきた。これが、2014年3月に改定された。自動運転が、運転者が自動運転機能を無効化あるいは停止できることを条件に、ついに合法化されたのだ(図3)。本来、人間よりも機械の方が、瞬時の状況変化に対応できる。これから先進国を中心に高齢化社会が到来する。高齢者の行動を、安全を確保しながらより活動的なものにするため、自動運転の実現は欠かせない。

自動車技術協会(SAE)が自動運転技術を6段階で定義の図
[図3] 自動車技術協会(SAE)が自動運転技術を6段階で定義
出典:VDA – Verband der Automobilindustrie; VDA-Position "Automated Driving" 21. Jan. 2014

自動運転は機能面から技術を見直すと、安全運転を支援するADAS(Advanced Driver Assistance System)と、機械を電子制御するバイワイヤー化が組み合わさった技術であると言える。バイワイヤー化については既に紹介した。ここからは、ADASにかかわる機能に絞って、どのような半導体が必要になるのか見てみよう。

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