No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

IoTの発展につながるセンサーの5方向の進化

最初は、「センサー機能の向上」である。イメージセンサーならば、解像度の向上や、明るい画像から暗い画像まで同時に取り込むダイナミックレンジの拡大、瞬間の動きを検知する取り込み速度の向上がこれに当たる。

2番目は、情報処理機能や通信機能など「電子回路の集積化」である。IoT関連機器には、センサーに、信号変換や演算処理を実行する回路、無線や有線での通信機能を組み合わせて搭載することになる。これらを1チップまたは1パッケージに集積することで、小型・軽量化、低消費電力化、低コスト化が可能になる。

3番目は、異種センサーの機能を一つにまとめる「マルチモーダル化」である。例えば、人の活動や健康状態を把握するためには、体温、血圧、運動量など、さまざまなデータを取得し、多角的な分析を加えて判断する必要がある。全てのデータを1チップ化または1パッケージ化したセンサーで取得できれば、被験者の装着負担を軽減できる小型化が実現し、データの常時取得が容易になる。

4番目は、同種のセンサーを複数個並べる「アレイ化」である。光を検知するフォトダイオードを縦横格子状に並べると、画像を取り込むイメージセンサーになる。同様に、いかなるセンサーもアレイ化によって、データの空間的な分布、方向の情報を取得できるようになる。

5番目は、使用場所の制限を少なくするための「信頼性や耐環境性の向上」である。高温、高湿度、大きな振動、高放射線量など特殊な環境に耐えられるセンサーを開発することで、人が簡単には近づけない場所のデータを取得できるようになる。

センサーを高度化する今とこれからの技術

現在、センサーの高度化に大いに貢献している技術が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である(図4)。従来のセンサーは、歪みを電圧に変換する圧電素子のような、材料の物性を利用した原理で検知するものが多かった。こうしたセンサーは、材料と加工法を変えて、様々な特性のセンサーに作り分ける必要がある。このため、汎用性に欠け、他のセンサーや電子回路との集積化も困難であった。

アナログ・デバイセズのMEMSで作った加速度センサーの例(左)、東京大学が開発した有機エレクトロニクスで作ったフレキシブルなセンサーの図
[図5] 現在最も旬な技術MEMSと将来期待の有機エレクトロニクス
アナログ・デバイセズのMEMSで作った加速度センサーの例(左)、東京大学が開発した有機エレクトロニクスで作ったフレキシブルなセンサー

これに対し、MEMSセンサーは、半導体の微細加工技術を応用して作る微小な機械である。振り子など、外部の変化に応じて動く微細な機構を作り、その動きを電圧や電流の変化に変換する原理で検知する。物性の違いを基にしたセンサーと異なり、機構を変えることで多種多様なセンサーを作ることができる。さらに、寸法を小さくすると、一般に感度や精度が向上する。マルチモーダル化やアレイ化も可能だ。しかも、Siウェーハ上に作るため、横に電子回路を集積することもできる。既にMEMSを応用したマイク、角速度センサー、加速度センサー、圧力センサーが実用化され、スマートフォンなどに数多く搭載されている。さらにガスセンサーや生物センサーなどに応用する研究も進んでいる。

センサーを高度化するうえで、MEMSが今旬な技術だとすると、新しい価値をもたらす可能性がある期待の技術が有機エレクトロニクスである。有機導電体や有機半導体などの材料を使って、印刷技術によって"モノ"の表面にセンサー機能を描き込むことができる技術だ。フィルムなどに印刷すれば、折り曲げたり、伸縮させたりするフレキシブルなセンサーも作ることができる。

例えば、東京大学の染谷隆夫教授のグループは、この技術を使って、触覚を持った「人工皮膚」や「シート型スキャナ」などを開発した。有機エレクトロニクスは、材料や製造手法を新たに開発する必要があることから、実用化に向けて克服すべきハードルは多くて高い。しかし、実現できた場合に拓ける可能性は、その困難に十分見合う広大なものである。

データの急増に合わせて頭脳も強化

IoT関連機器とビッグデータが集まるデータセンターは、車の両輪だ。IoTの進展によって、データセンターには莫大な量のデータが集まる。その中から意味のある情報を抽出し、活用するためには、増えたデータ量に見合った処理能力の向上が必須になる。

IoTが発展した時代、データセンターでは何が起きるのか、そこではどのような技術が求められるのか。今、金融業界で起こっている現象が端的に表している。株式のコンピュータ取引は、状況の把握、対処、実行、効果測定といった一連の動作が、すべて仮想空間の中だけで完結している。このため、データセンターの処理能力がわずかに違うだけで、巨額の利益もしくは損失に直結する。データセンターでは今、より高い処理能力を競う、熾烈な技術開発競争が起きている。現実世界のデータを扱うIoT関連機器がつながるデータセンターでも、同様の技術開発競争が必ず起きることだろう。

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