No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview
 

── 東北では、エネルギー関連の新技術の価値が、他の地域よりも早く強く再認識されたのですね。

その通りです。東北は、エネルギー関連の新技術の価値をどこよりも正しくとらえ、その社会実装を渇望しています。ここで新しい技術と産業を生み出し、それを日本中、世界中に広げていくことが、東北ならばできるし、必ず復興につながると考えています。日本は省エネルギー技術の先進国です。これはオイルショックを克服するために努力した結果得た強みです。また、米国の厳しい環境規制をクリアするために、低燃費車を作る高度な技術も進化しました。問題意識を強く持つところで、それを解決する新しい技術が生まれ育つのだと思います。

日本全国の知恵を集めた東北発の技術革新

── 東北復興次世代エネルギー研究開発機構では、どのような活動をしているのでしょうか。

この組織は、自治体や企業が東北でエネルギー関連の新しい技術を生み育てる際の拠り所として設立されました。東北大学では6つの復興プロジェクトを推し進めていますが、当機構はその1つである環境エネルギーセクションと位置づけられています。東北以外に拠点を置く企業や大学が参加するうえでも、こうした組織があった方が、求心力も高まりますし、参加しやすくなるでしょう。

また、平成24年度から28年度までの5年間は、3つの課題にフォーカスして、技術の研究開発と実証実験に取り組んでいます。その課題とは、「三陸沿岸へ導入可能な波力等の海洋再生可能エネルギーの研究開発(課題1)」「微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発(課題2)」「再生可能エネルギーを中心とし、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた都市の総合的なエネルギー管理システムの構築のための研究開発(課題3)」の3つです。課題1と課題2については、大学側が提案し、被災した自治体の協力を得てプロジェクトを進めています。課題3の中に含まれる、エネルギー管理システムの開発は、被災自治体の要望を聞いて立てたテーマです。

── 課題1ではどのような開発を進めているのでしょうか。また、これまでにどのような成果が出ていますか。

課題1では、波力と潮力を利用した新しい海洋再生可能エネルギー発電システムを開発しています(図1)。これは、東京大学生産技術研究所の丸山康樹教授と林昌奎教授を中心として進めているプロジェクトです。設備や装置は、久慈市と塩竈市の地元企業の協力により製作を行い、発電した電力は地元に供給する実験を実施しました。

波力発電装置
[図1]波力発電装置

このプロジェクトは、岩手県が太陽光や風力など再生可能エネルギーをフル活用した復興を構想しており、地域の特徴を生かせる発電手段として波力や潮力がマッチしたことから実現できました。これまで、波力発電や潮力発電は、海を実験の場として使わせてもらえなかったため技術開発が進められませんでした。今回、初めて海で波力発電を試すことができ、エネルギー庁や東北電力の厳しい検査をパスして、初の系統連携も実施することができました。実際に試し、将来に対する実績を作れたことが最大の成果です。

ただし、社会実装に向けては、多くの課題が残っています。まず、系統につなぐのは法制度上の問題からなかなか難しいのが実情です。本来、地産地消で電力利用したい気持ちはありますが、その代わり発電量の変動を無くし、安定な電気にするための需要側のバランスを取る管理技術が必要になります。

また、今回使った設備は、実証実験が終わって2~3年経てば、撤去しなければなりません。港湾の目的外使用に当たるからです。それでも実績はできたので、他の地域に継続して試せる場所を確保するなど、次につなげる努力を行っています。今後は、費用対効果を上げていくための技術開発をしていくことになります。

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