No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

──成果を確認しても、すぐに社会実装できないところは残念ですね。課題2は、どうでしょうか。

課題2では、下水などに含まれる無機養分を活用して微細藻類を培養し、そこからエネルギーとなる油を抽出するシステムを研究しています(図2)。下水の汚泥処理と同時に、油を生産してしまうという夢の技術です。実験室内で基礎的な知見を得るとともに、仙台市の南蒲生浄化センターに野外のパイロットプラントを建設して、実用規模でのプラント設計・建設・運転に必要な基礎データを収集しています。筑波大学の鈴木石根教授を中心とする生物学系のグループと、東北大学の青木秀之教授を中心とする工学系のグループが、異分野連携して進めています。

排水中の有機物・無機物を利用した微細藻類の培養
[図2]排水中の有機物・無機物を利用した微細藻類の培養

このテーマでは、油を高効率で生産する藻類の利用と藻類の細胞内にできた油をエネルギーを使わないで取り出し、精製する技術の開発のポイントになります。分離にもエネルギーが必要になりますから、投入した以上のエネルギーを獲得できる技術を確立しなければなりません。さらに、藻類からサプリメントなどの有用成分を採って、マルチ利用することにより経済性を高めることが可能です。

平時にも、非常時にも効果的なシステムを開発

── 夢が広がりますね。課題3は、どうでしょうか。

課題3では、3つのサブテーマに取り組んでいます。「エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステム(EMIMS)の創出」「モビリティ関連技術開発」「EMSと地域エネルギー関連技術開発」です。私はこのうちEMIMSの創出に関わっています。再生可能エネルギーを中心として、電気自動車などの蓄電機能を持ったモビリティを加えたエネルギーの統合システムを構築するための研究です(図3)。これまで、自動車と電力システムを相互接続して運用することはありませんでした。

統合システムの構成
[図3]統合システムの構成

石巻市や仙台市では、小学校を防災拠点にしています。構築したシステムは、再生可能エネルギーとして太陽光発電を、蓄電装置として定置用リチウムイオン二次電池を設置し、さらにお湯と電気を同時に作ることのできるエコウイルという自家発電設備で構成されています。そして、非常時には電気自動車を接続し、停電時でも3日間暮らせるだけの電気と熱エネルギーを確保できます。こうしたシステムを無駄なく実用化するためには、非常時に使えるだけではなく、平時利用のコンセプトが重要です。構築したシステムは、再生可能エネルギーを100%、無駄なく利用し、足りない時だけ電力を購入することにより、設備コストを最小化できるようになっています。

── 非常時に備えながら、平時にも活用できるのはすばらしいですね。

非常時でもエネルギーを確実に確保して命をつなげる仕組みは、東北に限らず日本中、世界中で欠かせません。自然の中からエネルギーを生み出す再生可能エネルギーは、非常時には一見使い勝手が優れているように見えます。しかし、再生可能エネルギーのみで生活するには、設備コストの面で実用的ではありません。

再生可能エネルギーを管理し、有効活用する技術は既にあります。だから、それを生かすインフラを整備する戦略を政府が持つことが重要なのです。現時点で何十万台もの電気自動車が普及しており、それをすべて系統電力につなげて管理すれば、再生可能エネルギーを系統電力に混ぜ込んだ時の電力を安定化することが可能になります。しかし、現状では、電力システムに電気自動車を組み込むことは、無謀なことと思われるでしょう。しかし、自動車や蓄電池の普及状況を見る限り、日本はこうした仕組みを最も整えやすい国だと思いますし、これくらいのことを行わないと真のイノベーションは起こらないような気もします。

理想は交流対応の電力システムを直流に変えること

── 貴重なエネルギーを、日本全国であまねく有効活用するためには、どのような技術の活用が重要になるのでしょうか。

日本が生んだ世界に誇る省エネルギー技術であるインバーター技術の活用が、省エネルギー化を推し進める上でのキーテクノロジーになります。インバーターとは、交流の電力を一度直流化し、最も効率のよい周波数に変換して利用する技術です。電力を最適な条件で管理・制御するには、電力は直流で扱った方が、メリットは多いのです。

インバーターは、省エネルギー化に欠かせない技術ですが、交流と直流の変換で電力を損失してしまいます。発電所から配電網、施設や家庭内を経て電気製品に至るまでの過程のなるべく多くの部分を直流化できれば、変換時の損失を劇的に減らすことができます。損失の削減は、消費者がライフスタイルを変えなくても電力を有効活用できるため、極めて有用な技術であると言えます。

既に直流電力は、インバータを含めれば、ほとんどの電気を使う製品で使われています。一見、交流電力を使っていると思われるエアコンや冷蔵庫でさえ、内部はインバータで直流化しています。これは、系統電力が交流だからです。

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