No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

第1回
パワートランジスタの主流素材 “シリコン” は、
ますます進展する

 

  • 2016.10.31
  • 文/津田 健二

日本国内にあるエアコンやファンなど、モータを使う電気製品の効率をわずか1~2%上げるだけで、100万kWの火力発電所数十基分の発電量を節約できると言われている。効率アップは省エネそのものになり、日本全体の電力削減につながる。その決め手となるのがパワー半導体だ。この連載では、第1回でなじみの薄いパワー半導体そのものの解説を、第2回でSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった新しいパワー半導体の動きを、第3回で今後の応用を含めた展望を紹介する。

パワー半導体は地味なものだが、エネルギー問題を解く重要な鍵だ。それはモータの効率を上げたり、オーディオアンプの消費電力を下げたりできるデバイスだからである。日本国内の産業部門の消費電力は、全体で年間4,850億kW。この内、モータが占める割合は約75%にあたる年間3,600億kWと非常に大きい。もし産業用モータの効率を1%上げると、その省エネ効果は36億kW/年となり、この数字は100万kWの火力発電所数十基分の発電量に相当する。

モータの回転数を自在に変えられる

電力効率を改善すれば、余計な電力を使わなくて済むし、CO2削減にもつながる。モータで消費する電力を制御(コントロール)するのがパワー半導体だ。モータとは、磁石のN極とS極の向きを少しずつ変えながら360度回転させるというアクチュエータ(駆動装置)である。かつて、交流モータは交流サイクルに合わせてモータの回転数が決まっていた。しかし、パワー半導体の発明によってオン・オフの周期を自由に調節できるようになり、モータの回転数を変えられるようになったのだ。磁石に流す電流は、大きければ大きいほど磁石の力が強くなるが、大きな電流を扱うのにも、やはりパワー半導体が必要となる(図1)。

手の指で指した部品が最先端のSiCパワートランジスタ(半導体素子)
[図1] 手の指で指した部品が最先端のSiCパワートランジスタ(半導体素子)

モータの回転数を自由自在に変えられるようになると、フル回転が必要ではない時には速度を落としておけば、消費電力を下げることができる。例えば暑さの厳しい日に、エアコンのスイッチを入れると急速にフル回転するため、電力を最も消費する。そして、部屋全体がある程度冷えると、エアコンは自動的にスイッチをオフにする。しかし、オン・オフを繰り返していると、実は消費電力が大きくなるのだ。そのため、状況によって高速回転から低速回転まで連続的に変えられれば、電力の無駄は少なくなる。クルマの経済速度(時速50~60kmの一定速度で走る)と同じで、モータを回し続けている方が慣性力が働き、多くのエネルギーを必要としないからだ。

日本以外のメーカーで製造されたエアコンは、サーモスタットでスイッチを入れるか切るかしかしていないものが多い。つまり決まった回転数でしかモータが動かないのだ。モータの回転数を連続的に変える装置がインバータ(周波数変換装置)である。インバータは、直流を交流に変換することからそのように呼ばれる。このインバータでも、パワー半導体が大活躍しているのだ。大電流をモータに供給するのにパワー半導体を使うわけだが、一般にはPWM(パルス幅変調)と呼ぶ技術を使って正弦波を作り出す(図2)。パワー半導体はパルスの幅を調整することによって、電流の大小を調整している。パワー半導体に電圧を加えることでオン、加えなければオフとし、電圧をかける時間を調整することで電流を制御するしくみだ。

インバータによるPWMの原理を、タンクに貯めた水を流すたとえで説明
[図2] インバータによるPWMの原理を、タンクに貯めた水を流すたとえで説明。栓はインバータ、タンクは電気を溜めるコンデンサ、水は電気と考え、栓を開く時間を長くするとたくさんの量の水が流れ、短いと少ししか流れない。平均して流れ出る水の量は点線のようになる。
出典:兵神装備
http://www.mohno-pump.co.jp/learning/manabiya/b3a.html

電流を流す時間は、マイクロコントローラ(マイコン)でプログラムする。つまり、エアコンのモータはマイコンで制御できる。

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