No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

モータ以外の用途も

パワー半導体とは、厳密な定義はないが、おおよそ1A以上の大きな電流をオン・オフしたり、あるいは連続的に変化させたりするような半導体、としてよいだろう。このため大電流を流す必要のある機器に用いられる。モータを駆動する以外にも、オーディオアンプでスピーカーのコイルを駆動する回路や、システム回路に電力を供給する電源回路にも使われている。照明に使う複数のLEDに、電力を時分割で供給するのにも使われる。

オーディオアンプでは、スピーカーコイルに音声の大きさに応じた電流を流し、コーンを震わせて音にする。コイルに流す電流が大きければ大きいほど、大きな音が出る。このため音声出力の大きなアンプは、大電流を流せるパワートランジスタが必要だ。

デジタルのマイクロプロセッサやメモリ、周辺回路、入出力回路などからなるコンピュータや電子回路では、安定した直流電圧電源がなければ回路を制御できない。このような安定した電源は、電圧レギュレータと呼ばれていたが、最近ではパワーマネジメントと呼ぶことが多い。

電源用のパワーマネジメントは、数Wから数百Wくらいまでのシステムに供給されるが、設定した電圧をゆるぎなく供給しなければならない。また、システムに一度に大量の電流を流すと、負荷により電源回路の電流が一時的に落ちる恐れがある。そのため、電圧低下を防ぐ工夫が必要で、大容量のコイルとコンデンサが使われる。コイルとコンデンサは大きいほど電流を溜める能力が高い。

LED照明回路では、LED1個の光が弱いため、LEDチップ数十〜百数十個を並べて使う。LEDを光らせるための電流を大量に供給するトランジスタもやはりパワー半導体である。多数のLEDチップを効率よく配置するため、5〜10個のLEDボードを直列に、数個〜十数個のストリングを並列に並べる。そして、それぞれのLEDボードに順番に電流を供給していくわけだが、その電流をパワー半導体が供給するのだ。

パワー半導体の用途の中で最も広く使われているのが、電源とモータ駆動だ。電源としては、スマホから大きな産業用ロボットまで広く使われている。モータ駆動にも、スマホのバイブ機能に使われる小さなものから、電車の車輪を動かす大きなものまである。そのため、要求されるスペックに応じて、さまざまなパワー半導体が求められている。

3相モータには6個のトランジスタ

クルマのモータは、バッテリセルを直並列に接続し、200V〜300Vまで昇圧した直流電圧を交流に変えることでロータを回転させている。この直流を交流に変える装置がインバータだ。モータ駆動のインバータには、IGBT*1のような大電力パワートランジスタを6個搭載するため、6個を1組とするモジュールが使いやすい。交流を作り出すためには正の正弦波と負の正弦波をスムーズにつなぐ必要があるため、直列接続した2個のトランジスタを1組として、3相交流を作り出すためには合計6個のトランジスタが必要になるのだ。

モータは安定した動作のために3相モータを使うことが多く、1回転360度を120度ずつ分担させることで、スムーズに回転させることができる。もし360度ずつ回転させようとするならば、場合によっては右回転か左回転かで立ち往生する危険がある。しかし120度ずつ分担させれば、どちら向きに回転するかで迷うことはない。

電源用途では、AC-DCコンバータやDC-DCコンバータの変換効率を上げ、発熱を抑えると省エネにつながる。そして省エネになれば、電源アダプタを小型にできる。例えば、図3はパソコン用の電源だが、大きさに注目してほしい。上は、富士通製でWindows 7/インテルCOREi3プロセッサのノートパソコン(2010年製造)のもので、電源アダプタはDC19V/4.22Aの80Wとなっている。下も同じく富士通製で、Windows 8/インテルCOREi5プロセッサのウルトラブック(2013年製造)のものだが、電源アダプタはDC19V/3.16Aで60Wだ。消費電力だけを見ると60W/80Wなので3/4に減っており、アダプタの大きさではほぼ半減している。この大きさから推測すると、実際のウルトラブックの動作電流はもっと小さいのかもしれない。

電源アダプタはパワー半導体の効率が良くなり小型になった
[図3] 電源アダプタはパワー半導体の効率が良くなり小型になった

[ 脚注 ]

*1
IGBT: MOSトランジスタのドレインにp型半導体を追加して、電流を増やした構造のトランジスタ。

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