No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

特にモータを駆動するような大電流用途では、IGBTへとシフトしている。ハイブリッドカーのモータを動かすのに使われているのもIGBTだ。例えば、ドイツのインフィニオン社は、BMW社のプラグインハイブリッドカーi8と電気自動車i3のモータを駆動するためのインバータにIGBTモジュールHybridPACK 2を搭載しており、実績を積んできている。

先述したように、IGBTは6個を1組として用いるパワーモジュール(図7)がよく使われるため、単体のトランジスタとして使われることは少ない。一口にパワーモジュールといっても、電流容量と耐圧から、さまざまな形状がある。図7は電車やクルマでは標準的になっているインフィニオン社のものだ。

IGBTパワーモジュールの例
[図7] IGBTパワーモジュールの例
出典:インフィニオン社

数十A、500V程度までならシリコンのパワーMOSトランジスタ、100A以上で600VくらいまでならIGBTが使われる。パワーMOSトランジスタには、耐圧650Vという製品も最近登場しており、シリコンの活動領域を広げつつある。シリコン半導体の最大のメリットは低コストだ。使い易さや性能を同価格帯で比較すると、やはりシリコンはメリットが大きい。

シリコンよりも高い耐圧と電流、さらに高速動作が必要な場合には、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった新しいパワー半導体が求められるようになる。これらは、特殊な結晶で出来た半導体であり、性能は良いが価格はまだシリコンの10倍以上と高価なものだ。SiCやGaNの特性については、改めて第2回で解説する。

パッケージ技術も重要

パワー半導体は、アナログ半導体と違い大電流を扱うことから、チップ技術だけではなく、それをパッケージに実装する技術も新たに開発する必要がある。

パッケージ化に必要な技術は、大電流によって生じた熱をいかに素早く逃がすか、ということに尽きる。熱をチップから素早く逃がすことができれば、チップは高熱にさらされることがなく、動作寿命は延びる。そのため、熱伝導率の高い材料が求められるのだ。ただし、コストが高すぎるのも困る。理論的には、ダイヤモンドが最も熱伝導率は高いのだが、コストも高い。そのため、コスト的にバランスの良い銅が使われている。

半導体パッケージの世界では、熱伝導率という言葉よりも、熱の通りやすさを表す熱抵抗という言葉が使われる。熱抵抗は、熱伝導率とは反対の概念で、高ければ高いほど熱伝導率は小さくなる。銅は熱抵抗の低い材料であるが、電気も流れやすい。パワートランジスタは、IGBTならコレクタ端子を放熱フィンにつなげることが多く、MOSトランジスタならドレイン端子をつなげることが多い。しかし、コレクタやドレインを高電圧につなげる場合には、放熱フィンから絶縁するか、あるいは銅に代わる新絶縁材料(熱抵抗は低いが、電気的な絶縁性が高い材料)を用いなければならない。こういった性質を持つAlN(窒化アルミニウム)やSiN(窒化シリコン)、マイカ(雲母)のような材料は高価なものが多く、あまり普及していない。そのため、熱を通しやすいが電気は通しにくく、しかも安価な材料が求められている。

また、熱を逃がしやすくするため、発熱源であるシリコンウェーハを薄く削るという手もある。実際パワートランジスタでは、厚さ600~800µm程度のものを、裏面から100µm以下まで削るようにしている。ウェーハ表面にはさまざまな半導体層が形成されているが、裏面を削ってもさほど影響はない。ウェーハを1/6~1/8に削れば熱抵抗も1/6~1/8まで減少する。

ただし、熱抵抗さえ下げれば良いというわけではない。動作時の100℃を超える高温と、オフ時の室温との間を何度も行ったり来たりするわけだから、シリコンを載せる基板とシリコンとの膨張係数の違いにより引き延ばされたり縮められたりすることになる。すると、応力が加わり界面近くのひび割れにつながるのである。このため、シリコンに近い熱膨張率の材料を、緩衝材として間に挟んでいるのだ。

また、電気的には大電流を流すと、丸い断面の配線がインダクタンス(誘導起電力)成分を持つようになり、実質的にコイルを持った状態に等しくなる。コイルにはエネルギーを溜めたり出したりする作用があるため、本来は電圧波形が直流のまっすぐ平らでなければならないのに、リンギングという波打ち状態になってしまう。すると、システムの特性は劣化し、狙った性能は得られない。このため、配線はインダクタンスを減らすように、できるだけ平らに設計するという工夫も必要になるのだ。

加えて、650Vといった高電圧での試験も必要となり、測定中は人間が触れないようにデバイスの試験装置にふたをする、といったケアも必要となる。

次はSiC、GaN新半導体の時代へ

SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった新しいパワー半導体は、従来のシリコンよりもはるかに高価だ。しかし、モータを駆動するインバータやACアダプタなどに使うと、システム全体を小型にできるという大きなメリットがある。小型化と高価格化との折り合いが、SiCやGaN導入の最大の問題となっている。これをどう解決するか、第2回ではSiC、GaNなど新半導体について解説する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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