No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Cross Talk

余剰電力を水素として溜める

 

── ICT(情報通信技術)が水素社会に向けて果たす役割があるなら、どんなところでしょうか。

大平 ── いろんなエネルギー源と繋がって、本当の水素の価値が生まれると考えます。エネルギー・システム全体を見通して、水素をどのように使っていくのか。

電気というエネルギーは生ものですので、適切なエネルギーの使用を考えるためには、電気をつくっているところと使っているところの情報を管理して、一致させなければいけません。今後再生可能エネルギーが増えていくと、一致させることが難しくなっていくのですが、その調整役として水素の出番もあると考えています。

今、蓄電池を中心にスマートグリッドのようなテクノロジーで管理する方法が進められています。この先「もっと電力を溜めたい」となったとき、水素の役割が出てくると思います。

また長距離輸送が可能というのも水素の特徴です。1970年代に水素の研究が始まったのは、オイルショックを受けて再生可能エネルギーの研究が進む中で、電力は長距離輸送できないという欠点を補うためです。せっかく太陽光で発電しても、電線が通っていなければ運べませんし。

佐藤 ── 砂漠に大量の太陽光パネルを設置して発電したらクリーンなエネルギーですけど、電線ではエネルギーロスが大きくて遠くへ運ぶのにも限界があるし、大きな電力は蓄電できないということなんですよね。

大平 ── その代わりに太陽光発電の電力で水素をつくろう、という話なんです。そのときネックになるのは、実は水。水がないと水素はつくれませんから。でも、砂漠で水素をつくるために水を使うくらいだったら、他の用途に使いたいですよね(笑)。

佐藤 ── 海水はどうですか?

大平 ── 塩分が入ってくるとどうしても機械にダメージを与えるので、ある程度クリーンにしてあげないといけません。海水をろ過して使うという方法もありますが、全体のエネルギーバランスを考える必要はあります。

大量発電の次の時代へ

大平 ── 本来、再生可能エネルギーで作った電気は、そのまま電気で使うのが一番ロスがありません。今の技術だと、水素に変換するときに2割くらいロスしますし、輸送時のロスを除いたとしても、電気として使おうとすれば半分くらいロスするんです。乱暴に言えば6割程度はロスしてしまうから、あまり効率が良くありません。

ただ、再生可能エネルギーの場合、たくさん電力ができたとしても、全部が使えるわけではない。使えない分は余剰電力になりますから、それを無駄にせず水素に変えると価値が出てきます。

佐藤 ── もっと未来の時代になって水素が身近になると、都市ではポータブルに溜める意味はほとんどなくなるのかもしれませんね。

郊外に小さな発電所みたいなものがつくられたとして、サイバーシティー化した都心の道路は非接触給電などができるようになる。すると電気自動車は重いバッテリーを積まなくても、道路を走っているだけで給電が受けられますから。

そういった都市から、いざ外に飛び出さなければならないときだけ、クルマはポータブルで水素を溜めればいい。「次の村に行ったら小さなパワーステーションから充電しよう」とか。そういう社会、とても効率的じゃありませんか?

大平 ── とても興味深い未来像ですね。再生可能エネルギーは分散型に向くので、そこを調整していくのに、佐藤さんの都市プランは有効そうです。

エネルギーに柔軟性を持たせていくのが、水素の役割。再生可能エネルギーが増えれば増えるほど、水素の活躍する場が増えていくはずです。現代は大量に一括発電した電力を広範囲に供給する社会ですが、その次に来るエネルギー分散型社会では、水素が主役になれるのではないでしょうか。

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