水素をめぐる各国の事情
── 今、水素エネルギーの研究や実証実験が最も進んでいるのは、どの国になるのでしょうか。
大平 ── 燃料電池の製品化に最も熱心なのは、日本です。家庭に燃料電池が17万台も入っているのは私たちの国だけで、ヨーロッパではフィールドテストの段階で、その規模は1,000台程度です。
アメリカではカリフォルニア州が積極的です。大型の燃料電池の導入も進められています。また大気汚染の観点で、電気自動車の導入も進められていて、FCVもその一環として販売されています。
ドイツの場合は再生可能エネルギーをたくさん導入する中で、水素の役割が注目されています。北部では風力で大量の発電が可能なのですが、大きな需要地である南部には送電容量の関係で送れない。そこで余剰の電力が発生するのですが、これで水素をつくって国中に張り巡らせているガスパイプラインに流したり、工業原料にしたり。もちろんFCVにも供給しています。
また、デンマークでは風力を使った実証実験で、地域に水素を供給するプロジェクトが行われていたようですし、フランスでもコルシカ島で太陽光発電と水素を組み合わせたシステムの実証研究を進めています。
── ドイツで水素の利用が盛んなのは、大手自動車メーカーが研究の助成をするような側面もあるのでしょうか。
大平 ── 世界で初めてFCVを公道で走らせたのはダイムラーですし、彼らも技術にはプライドを持っています。ドイツの自動車産業は将来のドライブトレンドとして、まずは電気、さらには燃料電池という道筋を描いて力を入れているのではないでしょうか。
フォーミュラEの取った戦略
大平 ── 私が学生の頃はF1がブームで、世界各国のチームやドライバーが競う姿に多くの人が興奮しました。自分自身もクルマが好きなので、モーターレースの世界が存続してほしいと思います。
個人的にはFCVでレースをやってほしいと思っているのですが、電気自動車ですとフォーミュラEがありましたよね。加速や音って、実際どんな感じなんでしょうか?
佐藤 ── モータースポーツの魅力のひとつである音がなくなってしまうのは、やはり寂しいですね。2014年から始まった電気自動車による「フォーミュラE」は、大きな可能性を秘めた生まれたばかりのシリーズですが、やはり音はひとつのネックです。電動ラジコンカーのように、キュルキュルキュルという感じで(笑)。
加速は電力が大きければ強力ですが、十分な容量のバッテリーがまだ存在していなく、レース中に何かしらの手段で電力を供給してあげないと持たないんですよ。
大平 ── F1でいうと、再給油をする感じですか?
佐藤 ── 2009年を最後にF1では再給油がなくなってしまいましたが、インディカーでは燃料の再給油をレース中に数秒で行います。ただし電気自動車の場合、充電となるとピットストップで急にできません。
ですから、フォーミュラEではクルマを2台用意して、レース中のピットストップでドライバーが乗り換えます。それはそれで斬新ですが、やっぱり圧倒的なスピード、パワー感がどうしても足りないんです。
電力を1〜2周で使い切っていいのなら、フルパワーで走れる。でも、それを20分保たせなければいけないので、どうしても省エネでレースをやらなければなりません。フォーミュラEの予選くらいのパワーをレースでもずっと継続することができれば、なかなか迫力があると思うんですけどね。燃料電池に変われば成功の可能性はさらに大きくなると思います。
大平 ── これまで見ていなかったフォーミュラEに、がぜん興味が湧いてきました。
佐藤 ── フォーミュラEが面白いのは、すべてのレースが都市で開催されていることです。モータースポーツの魅力の一つは音なんですが、その音が自分たちの首を絞めかねません。騒音問題があるから、街のど真ん中でレースはできませんという地域はやはり多いんですね。
でも、フォーミュラEの場合は音がほとんどしないから、街中での開催も比較的ハードルが低い。音という魅力の観点からはデメリットになるところを上手にメリットに変えたんですね。クリーンなイメージの電気自動車レースを主要都市で行えば、観光も含めてその街を宣伝できますから、エンターテインメントとしても有効なはずです。
大平 ── 水素に関しても、これからの社会で使っていくためには、まずどんなものか理解してもらって、身近なものにしていかないといけません。そのためにモータースポーツというのはいいきっかけになると思うんですよね。
佐藤 ── ええ、きっとなりますよ。