No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載01 スマート農業が世界と暮らしを変える
Series Report

豊作計画は、これまで勘と経験を頼りに、作業計画もなく大ざっぱに管理してきた農作業を、製造業では当たり前のPDCA(Plan:計画、Do:行動、Check:評価、Act:改善)という改善フレームワークに沿って進めるようシステム化したものだ。つまり、自動車業界で世界を制したトヨタ生産方式(TPS)を、農業に導入したものと言える。

利用法は以下のようなものだ。まず作業者は、作業の着手・完了、水田の状況などを、タブレット端末やスマートフォンから入力。すると、管理者は作業の進捗や水田の状況をリアルタイムで一元的に把握できるようになる。さらに、水田ごとの作業スケジュールをシステムが自動策定し、的確な作業指示を出す。豊作計画を導入したある農業法人では、資材費を25%、労務費を5%削減する成果を挙げたという。導入前は、田植えに際して必要な苗の数を正確に把握しておらず、苗を多めに作って、余らせた分は廃棄していた。しかし、豊作計画の導入により、苗の生育ロットを小さくして、必要な分だけ作って植える、ジャスト・イン・タイム(JIT)での管理運営ができるようになったのだ。

農業クラウドからスマート農業へ

さて、この連載の本題であるスマート農業は、農業クラウドから徐々に発展した技術体系である。農業クラウドでは、経営分野のように元々データを扱うことが多い業務が対象だった。また、データを蓄積・分析はするものの、分析結果を利用して農機や設備を自動制御するまでには至っていない。ところが、農業クラウドにIoT関連技術を取り入れ、さまざまなセンサーを活用することにより、農業はスマート農業へと進化した。農場からデータを吸い上げ、その分析結果をフィードバックしながら、農機や設備を自動制御できるようになったのだ。

製造業においては、現場から生産データを吸い上げ、そのデータを活用して製造・加工装置を自動制御するファクトリーオートメーションが高度に進んでいる。トヨタがこうした技術を生かして農業クラウドに参入したように、スマート農業には製造業企業の活躍の場がたくさんあるのだ。特に日本企業には農業に応用できる技術が豊富で、パナソニック、日立製作所、東芝、デンソー、昭和電工、JFEエンジニアリング、神戸製鋼所、安川電機など、多くの企業がスマート農業に参入している。以下、代表的な例を紹介しよう。

自然の力を生かして栽培施設の環境を整える

パナソニックは施設園芸システムに、住宅の温度や照度などを最適制御するスマートハウスで培った技術を応用している。「パッシブハウス型農業プラント」と呼ばれるシステムがそれで、ホウレンソウなどの栽培プラントとして販売を開始した。

開発したシステムの特徴は、日光や風など自然の力を利用し、空調機や暖房機を使用せずに省エネルギーでハウス内の環境を自動制御する点にある(図2)。ハウス内の温湿度センサーと、ハウス外の温度センサーおよび照度計からのデータを基に、7台の気流調整ファン、開閉窓、天井および左右側壁の遮光用カーテン、ミスト噴霧装置、散水装置を制御する。例えば、日光を取り込んで温度が上がったら噴霧や散水で冷却し、それにより湿度が上昇したら送風ファンで乾燥させるという制御サイクルを繰り返すのだ。しかも、ハウス内の温湿度を平均的にコントロールするのではなく、農作物が存在する地面付近のみ条件を整える。これは必要最小限のエネルギーで環境制御するためだ。

パッシブ型農業プラントのシステム構成
[図2] パッシブ型農業プラントのシステム構成
出典:パナソニックのホームページ

この技術によって、天候や季節の影響を抑えて年間を通じた栽培が可能になり、安定供給も期待できる。高温で生育が難しいとされる夏期でもホウレンソウ栽培が可能となるため、年間4~6回程度だった収穫を8回程度まで増やせるという。また、ハウス内の温度や日照を自動制御してくれるので、見回りや監視などの手間も省ける。

生育状況に合わせてLEDを調色し短期栽培

LEDの製造も行う材料メーカーの昭和電工は、植物の育成に必要な要素の1つである「光」にフォーカスしたLED植物工場システムを開発し、リーフレタスなどを栽培する植物工場事業を展開している。同社の植物工場の特徴は、光合成に最適な赤色光(波長660nm)を高効率で照射する自社開発のLEDと、植物を短期間で成長させる「S(SHIGYO)法」という栽培技術を組み合わせている点にある。S法とは、赤色と青色の光を交互に照射し、植物の成長過程に合わせてその照射パターンを変えていくことで植物の成長を促す手法。これは同社と山口大学農学部の執行正義教授が共同開発した技術である。

通常の蛍光灯や赤青比を固定したLED照明を照射する場合に比べて、S法では同じ育成期間での葉菜類の収穫量が約2倍まで増加するという。リーフレタスの一種であるレッドファイヤーの場合、種まきから収穫までの期間が蛍光灯では42日かかるが、S法なら32日で済む(図3)。つまり、出荷サイクルの短期化や単位面積当たりの収穫量の増大が可能となり、生産コスト低減が課題の植物工場において、投資回収期間の短縮が期待できるのだ。昭和電工によると、照射光の制御によって葉物野菜の甘みや苦みをコントロールできるほか、歯ごたえなどもある程度の調整が可能だという。同社ではこの技術を、トマト栽培などへ応用することも進めている。

リーフレタス栽培での昭和電工のS法による効果
[図3] リーフレタス栽培での昭和電工のS法による効果
出典:昭和電工のホームページ

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