No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

── 最初の製品が自然界にある電磁波のエネルギーを用いたFreeVolt技術ですね

身の回りには、既存の放送局、Wi-Fi、携帯電話からの電波などさまざまなマイクロ波エネルギーに囲まれています。今までそれらのエネルギーはただ無駄に飛び交っていましたが、これを新しいテクノロジーによってリサイクルしようという発想なのです。電波による電源技術でタグを開発しました。

図2がその理想的なタグ製品です。ここでは無駄に飛び交っているマイクロ波のエネルギーを電源とし、さらにワイヤレスでもデバイスに電力を送っています。そのため、電源のプラグも電池交換も要りません。これが当社の基本的なビジネスモデルです。そしてエンドツーエンドのIoTネットワークを通して、エネルギー効率を高めるといった会社理念に応用する方法についても考えています。

製品化したIoTタグ 大きさはスマートフォン並みだが非常に軽い
[図2]製品化したIoTタグ 大きさはスマートフォン並みだが非常に軽い

会社設立時の理念は、エネルギー効率が最も重要であり、どれだけ少ないエネルギーで電子回路を動作させるか、すなわちエネルギーハーベスティングでデバイスを動作させることでした。しかも、エネルギー効率の高い回路設計だけでなく、ソフトウェアプロトコル、通信、アップデートなど、そのIoTネットワークの全体が、本当に使えるレベルになっていることが重要です。さらに、エネルギー効率やデータ効率の良さを低コストで実現することが、持続可能な社会の実現につながります。

アンテナ設計がカギ

── 身の回りにある電磁波を利用する場合には、取り出す電力エネルギーは周波数に強く依存すると思います。御社ではどのような周波数を使っているのでしょう?

周波数帯によってアンテナ設計は変わりますが、この製品では2周波数帯を使っています。つまり、2Gセルラー周波数とWi-Fi周波数で、その周波数スペクトルに適合するアンテナを設計しています。*4ですから今後、3G、4Gの周波数が普及すれば、それに応じたアンテナを設計することになるでしょう。

平面アンテナ設計としては、リジッド基板に形成するものと、フレキシブル基板に形成するものを開発しています。フレキシブルアンテナの場合は、エネルギーハーベスティングのフレキシブルデバイス(例えばウェアラブルデバイス)の内側に形成します。

── そうすると広い周波数範囲のアンテナを設計しているのですね?

はい、その通りです。

── 今後、LTEや5Gへ進むと、IoT向けの狭い周波数帯域のRolaやNB-IoTなどの規格が出てきますが、それにも対応していくお考えですか?

まったくその通りです。当社では、全てのデバイスがつながるトレンドを常に把握しています。何を開発するかはネットワークの進化に依存しますね。今はセルラーネットワークが普及しているのでセルラーのマイクロ波を使っていますが、ゲートウェイや、BluetoothLE(Low Energy)デバイスからFreeVolt技術を使ったデバイスを通してスマートフォンへ、あるいはクラウドに上げる際の電波の利用も検討しています。さらに、Rolaタイプのネットワークや広範囲のネットワークについても、低消費電力のデバイスで用いるため、たくさんのメーカーが開発しているところです。

これら全てのケースにおいて、ノードのデバイスを動作させるのに必要なエネルギーと、データを転送するためのわずかなエネルギーとの間で、最適なバランスを探らなければなりません。しかし、ゲートウェイとして使う場合のバランスについては、まだはっきりとわかっていないようです。ただし、誰もが低コストでデータを最大化できるように試みているところではあります。

FreeVolt技術はIoTデバイスのエネルギー能力を増します。同時に当社は、エネルギーとデータに関して、ネットワークを非常に効率よく管理するためのマシンラーニングソフトウェアも開発しました。このソフトは、例えば使い勝手を良くしたり、ダイナミックにセンサをキャリブレーション(補正)したりするのに使います。

── ダイナミックにキャリブレーションするとはどういうことですか?

このタグデバイスには、CO2電気化学センサと温度センサが搭載されています。全ての電気化学センサは経時変化を起こす……つまり時間が経つと共に特性がドリフトするので、それを補正するわけです。モニターしているセンサはコストが高いため、Sensyneというソフトウェアでセンサを常時モニターしながら、ダイナミックにキャリブレーション(補正)するのです。

これによって、CO2センサを常に±0.3ppmという精度で測定させることができます。これらの製品は、小売価格約50ポンドからラインナップしています。また、従来通り、Sensyneソフトウェアをオフラインでキャリブレーションすることも可能です。ちなみに、この±0.3ppmという数字は、第三者の計測機関が測定したものですよ。

[ 脚注 ]

*4
アンテナは、コイルとキャパシタによる共振回路で電波を増幅するという作用を持ち、その大きさは周波数に関係する。つまり、周波数が高いほど波長は短くなるため、アンテナを小さくできる。

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