No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

── IoTの分野はハードウェアからソフトウェアまで全てカバーされているのですか?

分野としては、スマートシティ、スマートビルディング、デジタルヘルスの三つに注力しています。IoTの分野は非常に広く影響も極めて大きいのですが、当社はまだ誕生して間もないので、この三つに絞りました。これらを選んだのは、共通のテーマがあるからです。それは、環境の理解と人間の健康生活、省エネの理解との互いのリンクです。

応用製品では、ビル内の温度や空気の品質などを効率よくモニターして、それらの情報を提供します。ダッシュボードの形でウェブやスマホのアプリを通じて、ビル管理会社がこれらの情報をモニターするのです。これらを集積して、既存のビル管理システムの全てをITでつなぎますが、そのネットワークがセキュアでなければ、低コストで効率よく管理することができません。しかし当社のIoTを使えば、ビル内にネットワークを低リスクで、しかも容易に組むことができます。今すぐにでも始めることができますよ。

図2のタグを使い、データを集めクラウドに上げ、Sensyneで解析し、システムは有用な情報を提供します。この製品を使えば生産性が上がり、しかもエネルギー効率が高くなるのです。

── この製品はどのように使うのでしょうか

これは壁にピタリと貼り付けるだけです。人間が生活する高さに取り付ければ人間が感じる温度を表してくれます。電源をコンセントから取る必要がないため、どこにでも取り付けられるというメリットがあります。電源が近いからといって天井に取り付ければ、実際に人間が生活する温度とは異なってしまいますからね。このタグでは、局所的な温度を正確に測定できます。ビルの温度は場所によって大きく異なるので、できるだけ細かく測定して調整することが、快適さを提供するとともに省エネにもつながります。このオフィスのあるビルは全てのエアコンを中央管理室で制御していますが、場所によって温度が違い過ぎてびっくりすることが時々あります。だからこそ、このタグセンサでローカル制御する方が、快適で省エネになることを証明したいのです。

さらに、健康管理に関してはもっと真剣に考える必要があります。最近の研究によると、労働者の生産性は、空気の質によって大きく変わるそうです。空気の質は、病気の人や、妊婦さんにとってはとても重要です。そして、屋外の空気の質……例えば大気汚染はもっと深刻で、常にモニターしておく必要があります。つまり、健康管理においても、このタグセンサが重要になるのです。

── 大気汚染の実例を挙げていただけますか。

1年前にロンドンにセンサネットワークを設置しました。そして今は、ロンドン中に数千というデバイスがあり、それらが正確にしかも設置場所ごとに大気汚染の情報を提供しています。その情報は、スマートフォンのアプリを通してリアルタイムでみることが可能です。

さらにAPI(ソフトウエア部品が互いにやり取りできるようにするためのインターフェースの仕様)を通して別のアプリケーションを作り、刻々と変わる汚染状況をデータストリームの形で見ることも可能です。毎日のルーチンとして、あるいは予想としてもその情報を使うことができます。

また、大気汚染問題を抱えるメキシコシティでも、この実験を立ち上げました。さらに、まもなくサンフランシスコでもスタートしますし、2017年には日本でもやりたいと思っています。日本では電子部品商社のコーンズ社がパートナーとなっており、FreeVoltとソフトウエアのSensyne、CleanSpace(大気汚染をモニターするためのセンサネットワークのAPI)を日本市場へ提供します。

── スマートシティのアプリケーションはいかがでしょうか?

スマートシティでも重要なアプリケーションの一つに大気汚染観測があります。さらにエネルギー効率、データ効率の高いネットワークを構築する必要があり、それには都市問題もかかわってきます。例えば騒音の測定ですが、これは都市におけるQoL(生活の質)の問題を理解する必要があります。デバイスの中にインテリジェンスを埋め込むという点において、ゴミの収集に関連したネットワークを創り出します。そのようにすることによって、ハードワイヤードなセンサを持つコストがかからずに効率よく騒音を測定できるようになります。

スマートシティというのは、アプリケーションの一つです。メキシコでは記念館の中でテストしています。例えばテキーラというお酒はメキシコのテキーラ地方だけで作られる蒸留酒なので、シャンパンのように観光客を呼べる特産品です。スマートシティプロジェクトでは、特産品や伝統音楽、歴史的建造物などを紹介して観光客をテキーラ地方へ呼び込むように、IBM社とシスコ社と協力してアプリケーションを開発しています。その中で、当社は位置ビーコンを使ってマーケティング情報を提供しており、特定の場所でスマホに娯楽施設や教会などの観光情報を流すサービスを行っています。

こうしたサービスではFreeVoltとSensyneを効率よく使い、さらに位置ビーコンを加えることで情報を容易に提供できます。ビーコン技術はマーケティングにおいて非常に大きな可能性を秘めていますが、運用を阻む要因の一つに消費電力と設置コストの問題があります。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.