No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

── エネルギーハーベスティングで発生する電圧は非常に低く、数〜数十mVしかありません。DC-DCコンバータなどで昇圧することはできますか?

はい。そのための電源回路を開発し、デバイスの要求電圧まで上げています。さらに、FreeVoltを使い、少しずつ充電してデバイスにエネルギーを溜める……例えばリチウムイオン電池や大容量キャパシタなどに溜めるのです。

── Sensyneの役割は何ですか?

これは、システムを効率よく運用するためのソフトウェアです。本製品は特にエネルギー効率を高めることにフォーカスしています。

── Sensyneではマシンラーニングソフトウェアを使うようですが、どのような機能を持っているのでしょうか?

当社のマシンラーニングは、エネルギー効率とデータ効率を最適化するために使われています。定期的にセンサに対してポーリング(問い合わせ)をして、「今センサは動作していますか」と聞くのですが、例えば温度が変化しているとその問い合わせる頻度は多くなり、温度が安定していると尋ねる回数は少なくなります。大気汚染のセンサも同様で、変化が大きいと問い合わせる頻度が多くなる仕様です。

つまり、何度もセンサにポーリングしていると消費電力は多くなるので、温度や大気の状態に変化のないときは、ポーリングを減らして消費電力を抑えているのです。これによってネットワーク全体が高効率化し、センサの確度とコスト、消費電力のバランスをとることができます。これをマシンラーニングが自動的に行っているのです。

── センサ端末のハードウェアと、Sensyneのソフトウェアをどのようにして開発されたのでしょうか?

起業時の当社においてエンジニアはとても重要で、ハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアのチームを完全統合して製品を効率よく開発する必要がありました。そのため、ハードウェア開発やRF(高周波)開発に優秀なエンジニアを集め、さらにハードウェアの限界を補完するために賢いソフトウェア、すなわちマシンラーニングを活用したのです。

そして、優秀なソフトウェアエンジニアとハードウェアエンジニア、RFエンジニアたちに、共同で問題を解くことを提案しました。例えば、どうすればIoTネットワークをできる限り高効率で、FreeVolt技術によるエネルギーを最適化するシステムを作れるだろうか、というテーマです。そこでエネルギーの原点に戻り、「エネルギーはどのように使われ流れているか」を考慮に入れるインテリジェント、すなわちポーリングネットワークを考えたのです。ここでは二つの技術、SensyneとFreeVoltを一緒にすると顧客にメリットがあると考えました。

── どうやってエンジニアをリクルーティングしたのですか?

これが一番困難でしたね。具体的に言うことは難しいのですが、世界中に目を向け、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、メキシコなど、世界中からエンジニアを採用しました。ただ、幸運なのはこの地がロンドンだったことです。ここには世界中から人が集まっていますから。余談ですが、私は科学大臣の在任中に、金融業界には行くなとエンジニアに訴えたことがあります。

ロンドンでは、エンジニアは専門技術を生かせます。また、例えばエネルギー効率を追求したり、大気汚染を解決したりといった、地球環境に優しい技術を開発することもできるでしょう。だから、彼らは金融街に行くことは好きではないようです。

今の20代、30代の若いエンジニアは、一生懸命工夫して違いを創出し、生活を向上させる意味をよく知っています。ドレイソンテクノロジーズ社は、こういった声に応える会社です。今は40名がここで働いていますが、9月にはメキシコに販売オフィスを作りました。今後は国際的にもっと広げていくつもりです。

ポール・ドレイソン(Paul Drayson)
 

Profile

ポール・ドレイソン(Paul Drayson)

ドレイソン・テクノロジーズ社CEO

ロボット工学で博士号を取得した後、自動車産業に従事し、科学者兼・起業家としてのキャリアをスタートさせた。その後、創業者兼・CEOとして食品製造、ライフサイエンス、モータースポーツ研究開発、ITのビジネスも成功させる。1990年代には科学イノベーション政策に従事、バイオ産業協会会長を務め、オックスフォード大学経営大学院では科学起業家の育成も手がけた。2004年に上院議員になると、国防調達大臣や科学イノベーション大臣などを歴任、内閣にも参加している。2010年5月にドレイソン・テクノロジーズ社を設立し、現在に至る。ロイヤル技術アカデミーのフェローであり、オックスフォード大学理事会メンバーでもある。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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