No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

新市場が続々

汎用の半導体製品に比べてパワー半導体の数量は少ない。それでも期待が大きいのは、新しい市場が見えているからだ。例えば自動車は、環境にやさしく高燃費であるため、これからは電気自動車(EV)市場も増えてくる。さらに水素自動車でさえ、EVと同様にリチウムイオン電池(リチウムイオンバッテリ)とモータが必要になる。EVも水素自動車も、リチウムイオン電池とモータが使われる以上は、パワー半導体市場が生まれるわけだ。

また、海外のエアコンは、温度の設定範囲を超えると電気がオンやオフになる非インバータ方式にとどまっている。これに対して日本では、インバータ化しているエアコンが多く、省エネルギーに寄与している。

例えば、エアコンの排気ファンの風量を60%に抑えて運転する場合、インバータモータでのコントロールの方が、単純に電気のオン・オフでのコントロールに比べ、1年に19,700kWhの電力を節約でき、コストにして年間25万円下がるという試算がある(参考資料3)。

インバータのカギを握るのはパワー半導体だから、モータのインバータ化はパワー半導体にとって新市場となる。

もちろん、EVも新しい市場である。EVを動かすモータには回転数を可変するためのインバータが必須で、インバータにはパワー半導体が欠かせない。現在、大電流を流せるトランジスタはIGBTが適しているが、動作周波数が低いため、大きなコイルとコンデンサを使わざるを得ない。しかし、ここにSiC半導体を使うと高速動作が可能になり、コイルとコンデンサを小さくできる。もちろんインバータ部分は小型・軽量になり、EVにとっても良い方向だ。

これまで、ハイブリッドカーに力を入れてきたトヨタ自動車は、EVを避けるようにして、水素を利用する燃料電池車Miraiを開発してきたが、つい最近になってEVを開発することを発表した。それに合わせるように、SiCをクルマに搭載する時期は2020年という目標を掲げている。

GaNも新市場を開く

新しいパワー半導体のGaNはSiCよりも一歩リードして市場に受け入れられそうだ。GaN集積回路でトップを行くダイアログセミコンダクター社は、スマートフォンやタブレットといった25W~35Wの少電力、ノートパソコンのような45W~65Wの中電力、そしてサーバ向けの100W~1kWの大電力の電源に向けた応用をしっかりと見据えている。

例えばスマホ用電源では、GaNのモノリシック化(1枚の半導体チップ上に様々な回路を集積すること)により周辺部品コストを下げることが可能になるため、パワー半導体駆動回路を集積したICを開発した。デジタル回路から直接駆動できるため、全体のコストは安くなると同社は主張している。もちろん、高速化によってコイルとコンデンサを小さくできたため、これまでよりも40%まで小型化できる。これによりスマホのアダプタを小さくできるのだ。また、急速充電の仕様が固まり、電源IC用のメーカーはひそかに開発中だ。

パソコン用の電源アダプタは、コンセントに差すプラグとほぼ同じ程度の大きさになり、電源アダプタというよりプラグを持ち歩く感じになりそうだ。

じっくり立ち上がる

以上のような応用が定着すれば、GaNによる電源アダプタはパワー半導体の新たな市場を切り開くことになる。ただし、工業用半導体は時間のかかる市場であり、急速な市場の立ち上がりはありえない。

GaNを使ってスマホやパソコンの電源アダプタがプラグ程度の大きさになると、2-in-1タブレットやノートパソコンの持ち運びがもっと容易になる。しかも急速充電が可能となれば、大市場に成長する可能性がある。

しかしながらGaNプロセスを担当するTSMC社のようなファウンドリ企業は、GaN製造プロセスの開発が簡単ではないことを知っているだろう。このため、2017年に量産開始という目標を立てているものの、実際のラインの立ち上がりまでに一般には1年程度はかかる。GaNの製造が本格的に立ち上がるのは、2018年ごろ。トヨタがSiCをEVに搭載すると明言している2020年以降は、市場も拡大していくという予測もできそうだ。

[ 参考資料 ]

1.
パワー半導体の世界市場に関する調査結果2011(2012年1月19日)
http://www.yano.co.jp/press/pdf/903.pdf
2.
パワー半導体事業 事業戦略、富士電機 (2014年5月16日)
http://www.fujielectric.co.jp/about/ir/pdf/pre/140526_4.pdf
3.
ファン・ポンプのインバータ化、東北電力
https://www.tohoku-epco.co.jp/ryokin/hojin/pdf/b19.pdf

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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