No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

第3回
始まる今後のロードマップ

 

  • 2016.12.29
  • 文/津田 健二

パワー半導体の市場は今後、どの程度期待されるのだろうか。実は、パワー半導体ほど市場調査会社の予測が異なる製品分野も珍しい。例えば2015年のパワー半導体市場は、ある市場調査会社は148億ドルだといい、別の調査会社は340億ドル、さらに別の調査会社は2兆6561億円(約221億ドル)としている。最終回では、調査会社の予測が難しく、市場規模の解釈の異なる理由を探りながら、今後、パワー半導体の導入が期待される市場を見ていきたい。

パワー半導体の市場規模は市場調査会社の間で大きく異なる。その理由はなぜだろうか。大きく異なれば、投資判断が異なってくる。調査会社によって解釈の違いがあるのは、おそらくパワー半導体という定義が変わってきているためではないだろうか。例えば、日本の電子技術産業協会(JEITA)は統計を取り続けているが、シリコントランジスタを1W未満と1W以上で区分けしている。つまり、パワートランジスタと小信号トランジスタとの境を1Wに定めているわけだ。

一方、パワー半導体のトップメーカーである、ドイツのインフィニオンテクノロジーズ社のウェブサイトを見ると、耐圧20Vから900VまでのMOSFETをはじめ、IGBTやパワーIC、電源ICなどさまざまな製品があるが、どれも数十W以上のものであり、数W程度のパワートランジスタというものは見当たらない。

かつて、パワートランジスタは、ドライバなどほかの回路を1チップでシリコン上に集積しにくかった。パワートランジスタ部分だけが発熱し、発熱が一部に集中しやすかったためだ。今では発熱対策の技術が向上し、アナログやロジックも集積するパワーICが出回るようになっている。このため、単体(ディスクリート)のトランジスタが扱う電力の範囲がますます広がり、比較的小さな電力のパワートランジスタはICに集積されるようになってきた。

そのため最近では、数十V以上、数A以上取り扱うデバイスをパワー半導体と呼んでいるようだ。つまり、JEITAの示すような定義はもはや意味を持たなくなり、パワートランジスタやダイオードの定義が市場調査会社やメーカーの間でまちまちになったことから、その市場規模がはっきりしなくなったと言ってよいだろう。

扱える電力・周波数を拡大へ

パワー半導体を製品で見てみると、ある大手パワー半導体メーカーのウェブサイトでは、パワーMOSFET、IGBT、スマートローサイド&ハイサイドスイッチ、リニア電圧レギュレータ、DC-DCコンバータ、照明用IC、シリコンカーバイド(SiC)、ハイパワーダイオードとサイリスタ、モータ制御&ゲートドライブIC、AC-DC電力変換、半導体リレー、オーディオドライバICが挙げられている。単体のトランジスタよりも、ICの方が製品の種類は多い。

加えて、パワー半導体を動作周波数で分ける場合もある。動作周波数によって用途が異なるからだ。図1(連載第1回の図4と同じ図)を見ると、動作周波数は低いが電力変換容量が最大100M×1kVAにも及ぶのがサイリスタであり、最も高速(動作周波数が高い)ではあるものの電力変換容量が1k×1kVA以下と小さいのがMOSFETや今後伸びていくであろうGaNトランジスタである。

パワー半導体は大電力化、高速化の方向に進んでいる
[図1] パワー半導体は大電力化、高速化の方向に進んでいる
出典:JEITA

パワートランジスタの動作周波数が高くなればなるほど、周辺の受動部品は小さくて済むため、パワートランジスタの高速化も、大電力化と共に進んでいる。高速化することで、パワー半導体を使ったインバータ回路や電源回路などを小型に作ることができる。

動作周波数がさらに高くなれば、無線機器のRF(高周波)送信機やレーダーに使うことができるようになる。通信の基地局や携帯電話、宇宙・航空用トランシーバの送信機などの分野が開けてくるのだ。RFパワーアンプはスマートフォンや携帯電話に入っており、その数量は世界に14億台。つまり巨大な市場になっているのだ。しかし図1では、このRF送信機のパワーアンプ用途は含んでいない。つまり、高周波・高出力のトランジスタはパワー半導体とみなされていないようで、市場調査会社のパワー半導体の用途でもRFパワーアンプは入っていないことが多い。

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