No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

データ分析リテラシーが、企業や国の競争力を高める

──専門家ではない普通の人も、データ分析を行えるようになるのでしょうか? 統計学の入門書を見ると、複雑な数式が並んでいて、げんなりするという人も多いのでは?

普通の人が、統計手法の数学的な意味まで理解する必要はないでしょう。何かのデータがあったら、それを単純集計するのではなく、例えば性別や家族構成などのカテゴリや属性ごとにクロス集計してみる。そして、その違いが偶然によるものかどうかを検証して、意思決定の材料にすればよいのです。

日本国内についていえば、これくらいのリテラシーを全員が身につけることはそれほど難しくないはずです。戦後、製造業の現場では当たり前のように標準偏差や標準誤差を計算して品質管理に活かしています。その一方、いわゆるエリートであるはずの大企業の社員や中央省庁の職員でも単純集計しかしていなかったりする。日本国内に限れば、データ分析のリテラシーに大した差はないんですよ。

そこで、基本的なデータ分析の手法をビジネスマンに知ってもらうために、『1億人のための統計解析』(日経BP)という本を書きました。ビジネスの現場で使う分析手法をExcelで学べますから、興味のある方はこちらをご覧ください。

──ビジネスマンのデータ分析リテラシーが上がると、どういう変化が起こるのでしょう?

最大の変化は、流動性が高まって経済活動が活発になるということです。

行動経済学により、人間の意思決定はあまり合理的になされていないことがわかってきました。例えば、「現状維持バイアス」の存在です。人間は、多少のリスクはあっても儲かる可能性の高い選択肢より、現状維持を選びがちなんですね。こういうことがビジネスのいたるところで起こっています。「今取引している会社に発注するよりも、こちらのベンチャーに発注した方が広告効果は高そう」と現場担当者が思ったとしても、結局リスクを恐れて取引先を変更することができません。

しかし、データ分析による可視化が一般的になったらどうでしょう? 法学的な定義として過失とは「ある事実を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って、認識・予見などの回避する行為を怠ったこと」を言いますが、データ分析をやっていない、あるいは分析結果から見えてきた施策を採用していないということになれば、経営者は株主から、従業員は上司から過失責任を問われてしまうことになるでしょう。

データ分析リテラシーがあるレベルを超えると、流動性が一気に高まり、大きな会社も現状に甘んじていることができなくなります。

私はこういう劇的な変化が今後10年くらいの間に起こると考えています。これについてある会社の重役に話したところ、「うちは古い体質だから、データ分析を取り入れるのに10年以上かかりそうだ」と反論されましたが、自分の会社がいつデータ分析を取り入れるかよりも、データ分析を取り入れない会社が10年以上も生き残っていられるかどうか、という点をよく考えてみてほしいですね。これからは、新興企業が市場の売上をあっという間に全部持っていくことも珍しくはなくなるはずです。

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