No.006 ”データでデザインする社会”
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データで災害リスクを減らす。

 

  • 2014.03.31
  • 文/淵上 周平

人間の歴史は、自然の恵みと脅威との付き合い方の歴史である、といっても言い過ぎではないだろう。多くの歴史的事実は、自然の力を前に翻弄される人類の姿を示しているようにも見える。しかし一方で、人間は着々と自然の脅威に対して、予測と防御のテクノロジーを磨きながら一定の成果を上げてきている。この記事では、こうしたテクノロジーの最先端である「データを活用した防災」のチャレンジについて紹介する。

人類と防災の歴史

人間が自然の力と付き合ってきた歴史を紐解いてみると、自然環境が発しているシグナルをキャッチして、災害を未然に防ごうとする智恵が脈々とあることがわかる。たとえば"日を知る"が語源だと言う説もある、古代から中世の仏教僧「ひじり(聖)」は、気象や天文という自然の力を、人間の世界と接続する知識人としての役割を持っていたとされる。「ひじり」は、自然現象の観察データを蓄積し、田植えや稲刈りなど農作業上の暦を管理し、また災害を予言し未然に防ぐという重要な役割を果たしていたと考えられる。

また、「蜂が巣をつくる場所がいつもより高いときは、夏に大雨がある」、といった民間伝承の類(最新の科学の知見がこうした伝承を裏付けていることもある)も、自然を観察したデータから、災害に備える智恵の一つであろう。

わたしたち人類は、こうした自然災害の現象の解明と事前の予測、あるいは土木や建築技術によって、災害に対応するための知見と経験を積み重ねてきたのである。しかし、近年そこに新しい動きが現れてきている。それが、「データ」の活用だ。コンピューターの計算力の向上、センサー技術の高度化とコモディティ化(廉価になり身近な存在になったこと)、そしてWebによるネットワーク化とオープン化は、自然災害に関わる大量のデータを社会に蓄積し、その活用を促しているのだ。

別の角度から見ると、こうした膨大なデータを生みだす社会の複雑化が、災害のリスクを大きくしているということもできる。実際、国連が2011年にリリースした国連世界防災白書2011
http://www.preventionweb.net/english/hyogo/gar/2011/en/bgdocs/GAR-2011/GAR2011_ES_JPN.pdf)では、東日本大震災の発生とその影響で起こった原発事故が示したリスクの大きさと脆弱性を考察し、それが現代社会が構築し依存することになっている社会システム、情報システムの複雑性と相互依存性と深く関わっていることを指摘している。こうした状況の中、「データ」を活用した新しい防災にはどんな可能性があるのか、考察してみよう。

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