No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

──データ分析を使って、短期的な利益の向上だけを追求する会社も増えてくるのではないでしょうか?

むしろ、そこまでデータ分析を使ってくれた方がありがたいですね。ビジネス環境は常に変化し、勝者の条件も変わり続けます。例えば、最初のうち、ある業界で勝者になる条件は性能を最大化することだったり、価格を安くすることだったりするかもしれません。やがて性能や価格では差が付かなくなり、デザインや顧客満足度を向上させることが利益につながるという分析結果が出れば、そちらの方向に向かうこともあるでしょう。

データ分析によってビジネスというゲームのルールはどんどん高度化していきますが、少なくとも消費者にとってのコストパフォーマンスは上がり続けるでしょう。

──データ分析リテラシーのある人とない人の格差が広がりそうです。

今では中学や高校でも統計学が必須になっていますが、教育カリキュラムを徹底的に練って、データ分析リテラシーの底上げを図る必要があるでしょう。

経済成長には、教育による人的資本の充実が不可欠だという研究があります。現代、特に東アジア地域だと識字率などではもう差が付かなくなってきました。今後は、データ分析リテラシーが差別化要因になってくるのではないかと、個人的には思っています。

ちなみに、教育カリキュラムの改善を行う上でも、データ分析は重要です。例えば、「生徒の英語上達度」を分析し、上達する生徒とそうでない生徒の違いを明らかにして適切な施策を打てば、気づかないうちに日本人の英語レベルを上げられるかもしれませんね。

──公衆衛生を向上させるためにデータ分析で会社の利益を上げて、さらに社会のリテラシーを底上げするというのは、「急がば回れ」というか、壮大な野心ですね。

昔、私はゲーム少年で、ドラクエやファイナルファンタジーにハマっていました。ゲームをたんにクリアするのではなく、効率的に経験値を稼ぐ技を見つけるのが大好きだったんですよ。レベル上げを行う際にはよく、決まった時間ごとに獲得した経験値を計算して「もっと効率良くできないか」という改善方法を考えていました。また、得られる経験値が高くて仲間を呼ぶモンスターのいる場所を探し、そこに留まってボタンを自動で連打するようにしておけば、テレビの電源を切って寝たり、学校に行ったりしている間にレベルを上げられるとか。データ分析を世の中に普及させるというのは、私なりの攻略法なんです(笑)。

Profile

西内 啓(にしうち ひろむ)

1981年生まれ。東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータに基づいて社会にイノベーションを起こすためのさまざまなプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および戦略立案をコンサルティングする。著書に、『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP)など。

Writer

山路 達也(やまじ たつや)

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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