No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

北陸のオープンデータシティ
鯖江市が先端を行く理由。

2014.04.30

福野 泰介 (jig.jp 代表取締役社長)

公共機関が持っているデータをWebで使いやすい形で公開することにより、1透明性・信頼性の向上、2国民参加・官民協働の推進、3経済の活性化・行政の効率化、を図ろうというオープンデータの試みは、国の方針としても明確に示され、今後の展開が期待されている。とはいえプライバシーの問題や、オープンデータの思想的背景と官僚機構の慣習の齟齬など、まだまだ課題も多い。そんな中でも、日本の自治体でその最先端を走っているのが福井県鯖江市だ。人口7万の地方都市は、自治体ではじめてW3C*1に加盟するなど、日本のオープンデータ界を牽引している。そのキーマンの1人が福野泰介氏だ。

(インタビュー・文/淵上 周平 写真/東 花行)

──福野さんは、jig.jpというIT企業の経営をしつつ、今もプログラミングコードを書いていらっしゃいます。また、「オープンデータの普及には、パブリックな事柄に関心のあるプログラマーがなるべくたくさん居た方がいい」と、発言なさっていますが、福野さん自身はいつからプログラミングをなさっていたのですか?

福野 ── プログラミングは小3からやっていました。最初はゲームでした。MSX*2というパソコンを買ってもらい、雑誌に載っているプログラムを手で入力して、改造して遊んでいました。転機だったのは、福井高専に入って、地球物理学研究会、通称「ナマズ」というサークルに入ったことですね。地震の研究をしている先生がいらっしゃって、そこにパソコン好きが集まって…先生がもってくる地電位のデータを解析して、地震との因果関係を調べるという活動でした。C++*3で解析プログラムを書いて、FFT*4で調べる、というようなことをやらせてもらい、「ゲームじゃなくても、プログラムって人の役に立つんだ」と感じました。これが今の仕事につながるきっかけになったと思います。

人間の姿や形は何万年レベルで変わっていませんが、道具は大きく変化しました。"道具とは時間を創りだすもの"、というのが僕の定義です。たとえばグーグル・グラスは、ウィンク一つで見ている風景を画像として残すことができる。圧倒的に時間を短縮しているわけです。ソフトウェアはつくる際にモノの制約無しに無尽蔵にいろいろな道具を作ることができます。世界に向けて強力な道具を提供したいなと、高専生のときに思いました。

ティム・バーナーズ=リーとの出会い

──オープンデータに関心を持ったのはどういう経緯で?

福野 ── いわゆるガラケー時代の携帯電話向けに開発したjigブラウザ*5が、そのままスマホに移行するということは考えられなかったので、モバイルの次の仕様を踏まえてどうするかということで、W3Cに行って情報収集をしたんです。HTML5*6とかCSS3*7のような技術について調べに行きました。

すると、ティム・バーナーズ=リー*8がいて、政府がどうだこうだという話ばかりしている。よく聞いてみると、イギリスやアメリカ政府は、データカタログを作ってセマンティックWeb*9に向けて動きだしている、と彼は言っていた。その辺りの議論をしていたテーブルで、「僕は日本の鯖江市というところから来ていて、市とも繋がりがあるから、オープンデータというのをやってみたいと思う」と言ったら、周りが「面白そうだからやってよ」、という話になりました。オープンデータやオープンガバメントというコンセプトに出会ったのはその時です。

ティム・バーナーズ=リーがずっと言い続けているセマンティックWebが現実化すると、圧倒的にWebが使いやすくなる。その分野で日本が遅れる、つまりデータとしてのインフラ整備が整っていないと、実現できない大事なサービスがいろいろある。そんなサービスがイギリス発、アメリカ発になってしまうのは日本にとってマイナスだなと思いました。W3Cのマネージャーだった一色正男慶応大学特任教授に聞いてみると、「日本はまだ全然はじまってないよ」と。だったらまず鯖江からはじめたいと、一色先生に来てもらって、鯖江市長にも会ってもらいました。そこからすべてが始まったのです。

──そもそも市とのよい関係があったのが大きかったと思うんですが。

福野 ── 鯖江で起業していた関係もあって、2006年4月に市長と対談する機会がありました。その時市長に、「ブログをやりましょう」と提案したら、すぐに受け入れてくれました。それからほぼ毎日のように市長ブログを更新しています。市長はもう72歳ですが、ブログの更新を欠かすことないばかりか、朝一にFacebookに投稿する。鯖江の一日がここからはじまると言ってもいい(笑)。今はブログ、Facebookが多いですが、過去には、TwitterやUstreamでの放送もしました。「これからはスマホですから、変えてください」と言いに行った時には、「せっかく慣れたのに」と最初は渋られたんですが、でも翌日には変えてきてくれました。ITにとても理解がある市長の存在は大きいですね。

[ 注釈 ]

*1
W3C: WWWで使用される技術の標準化を推進するための非営利団体。World Wide Web Consortium(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム) の略称。
*2
MSX: 1983年にマイクロソフトとアスキー(当時)が提唱したパソコンの共通規格。数万円からという安い価格でソニーやパナソニック等がこの規格でパソコンを展開し、中高生などを中心に大きな支持を得ていた。
*3
C++: もっともよく使われているプログラミング言語の一つ。
*4
FFT: フーリエ解析。波形の分析手法。
*5
jigブラウザ: jig.jpが開発した携帯用のブラウザ。
*6
HTML5: Web上の文書を記述するためのHyperText Markup Language(ハイパーテキスト マークアップ ランゲージ)の5度目の大きな改定版。動画や音声などのマルチメディア対応、より明確になった文書構造によってコンピュータや各種デバイスの解釈がより正確になることなどが特徴。
*7
CSS3: HTMLの体裁・表示部分を制御するCascading Style Sheets(CSS、カスケーディング・スタイル・シート、カスケード・スタイル・シート)の仕様。
*8
ティム・バーナーズ=リー: イギリス人のサイエンティストで、ワールドワイドWeb(WWW)を発明した人物。
*9
セマンティックWeb: ティム・バーナーズ=リーによって提唱されたWeb上のデータの形式や意味を整理することで、コンピュータが自動的に情報を編集・分析することが容易にし、Webの利便性を向上させるプロジェクト。
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