No.006 ”データでデザインする社会”
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テクノロジー

30年の時を経て、実現に向かい始めた
「モノのインターネット」

 

  • 2014.05.30
  • 文/山路 達也

身の回りにあるあらゆる電子機器同士が自律的に通信を行い、ユーザーが意識せずとも最適な環境を作り出す……。そんな「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)のコンセプトが最初に示されたのは、1980年代のことだ。スマートデバイスや通信網が進化したことで、IoTはようやく現実に近づきつつある。

TRONが示した「どこでもコンピューター」

昔に提唱されたビジョンが、技術の進歩によって花開くのは珍しいことではない。

例えば、クラウドコンピューティング。インターネット上のコンピューターにアクセスしてサービスを利用したり何らかの処理を行わせるのは今や当たり前で、スマートフォンのアプリでもネット接続が前提になっていたりする。今より20年近く前、IT企業のオラクルは、パソコン本体内に記憶装置を持たず、ネットワークに接続して使う「ネットワークコンピューター」の概念を提唱したが、当時は低速なダイヤルアップ接続が主流だったため、普及することはなかった。アイデア自体は魅力的でも、インフラを含めた周りの環境が整わなければ実現はできない。クラウドコンピューティングは、低コストのブロードバンド回線が普及して初めて可能になったのだ。

2010年頃から、急速に注目を集めているキーワード「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)。家電や自動車、さまざまなセンサーが直接インターネットにつながり、機器同士が自動的にデータをやり取りして自律的に動作する……というのが、IoTのあらましだが、実をいえばそれほど目新しい概念ではない。

1980年代、東京大学の情報科学科助教授だった坂村健博士は、TRONプロジェクトを提唱。TRONプロジェクトは、家電や産業機械といった組み込み分野(汎用的なパソコンとは異なり、特定の機能を持った機器に組み込まれたコンピュータシステムのこと)向けのOS開発(パソコン用OSの開発も進めていたが、アメリカがTRONを貿易障壁の1つとして挙げたことによって事実上頓挫した)を目指しており、最終的なゴールを「どこでもコンピューター」に設定していた。「どこでもコンピューター」は、コンピューターを内蔵した機器同士がネットワークを通じて協調動作するというコンセプト。このコンセプトを実証するため、TRONプロジェクトは1989年に「TRONハウス」という住宅実験を行っている。TRONハウスでは、各種センサーが気温の変化や雨を検知し、窓やエアコンを制御する。現在研究されているスマートハウスの源流でもある。

また、1991年には、ゼロックスパロ・アルト研究所のマーク・ワイザー博士が「ユビキタスコンピューティング」という用語を論文の中で使用し、その後この用語が世界中で使われるようになっている。

どこでもコンピューターや、ユビキタスコンピューティングは、過去にIoTと同じゴールを目指していたのである。

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