No.006 ”データでデザインする社会”
Topics
政治

投票とクリック

Web時代の民意の予測・可視化・実行

  • 2014.03.31
  • 文/渕上 周平

民主主義とは、多種多様な意志をまとめ、一つの動きに変える方法である。一つにまとまった意志は民意と呼ばれ、その民意によって、国家や自治体といったパブリックな領域は運営される。しかし極度に複雑化しグローバル化した現代社会において、こうした民主主義の装置は"正しく"機能しているのだろうか。選挙や世論調査といった古典的なそれから、ソーシャルメディアやビッグデータ解析まで、民主主義を支える様々な装置の未来の形を考える。

選挙の結果はデータ解析で予想できるか?

日本という国は、立法と行政と司法の3つの権力によって運営されている。このうち行政を担う議会は、選挙という制度を通して国民の意志を反映し選出された議員によって運営される。選挙は、パブリックの運営を誰が行うかを可視化する一種の"おまつり"である。2013年に行われた参議院選挙において、一部で話題になったトピックがあった。それは、インターネット企業であるヤフーが、自社サイトへのユーザアクセスデータの分析から、与野党の獲得議席数を的中、各党の議席数もかなりの精度で予測を成功させた、という発表である。*1

もう一つ、選挙予測で話題になったのが、ポーカーのプロプレイヤーからデータアナリストに転身したネイト・シルバーという人物の存在である。驚くべきはその的中率で、なんと2008年の大統領選で、全米50州のうち49州、2012年の大統領選では50州すべての投票結果をパーフェクトに予測したのだ。著書『シグナル&ノイズ』によると、この魔法のような予測は、過去の世論調査や選挙結果、経済指標などを、正確性やバイアスといった誤差を考慮して調整する、というオーソドックスな手法によって行ったものだという。予測にあたっては、いくつかの原則をベースにした、とシルバーは語る。確率論的に考え、新しい情報や様々な偶然に対してオープンな姿勢を保つこと。「個人の予測よりもグループの予測のほうが15%から20%は正確性が増す」という"統計的"な事実から、たくさんの予測や世論調査のコンセンサスを探していくことなどである。ヤフーのビッグデータ分析と違うのは、各種データの重み付けには、シルバーの長年のデータウォッチの積み上げを背景にした経験や勘が存分に発揮されている点にある。あるインタビューで、彼はこう答えている。

「データを読み解く能力のうちで、最も教えることが難しいのは、どんな問いが適切なのかを直観する能力だ。(中略)本だけでは、そういった能力は養われない。経験を通して習得していくものだ。*2コンピュータが行うデータ解析と人間の直感や分類などの協同作業が、選挙の予測には必要だとシルバーは強調する。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.