No.006 ”データでデザインする社会”
CROSS × TALK データを活かした社会の知

ビッグデータという宝の山から、共有知を探り当てるには、どうしたらよいか。 いま、人ができること、機械ができることを見極めながら、人工知能の研究が進んでいる。
新しいメディアの最前線で走り続けるジャーナリストと、社会共有知研究の第一人者が、ネット化社会の現在と未来を考える。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/MOTOKO)

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ネットコミュニティはなぜ衰退するか

新井 ── 私はかつて計算の理論を研究していました。理論の分析をしていただけなので、プログラムは自分の理論を確かめる時に作るぐらい。当初は、そんなにWebには関心がありませんでした。

最初にWebに関心を持ったのは、1998年ぐらいです。100人ぐらい主婦を集めて、会員制サイト「ムギ畑」*1で数学を教えることになりました。

津田 ── eラーニング*2の元祖ですね。

新井 ── ええ。勝間和代さんが提供されているワーキングマザーのためのサイトなのですが、そこでお母さんのための算数教室をやったんですね。いろんな人の意見を聞いて、算数が題材でもみんな楽しめるんだ、Webっていいなって思ったのです。

津田 ── その頃にインターネットに参加して、掲示板で意見を交換するというのは、Webリテラシーが高い人々だったのでしょうけれど、それは新井さんが「共有知*3」と言われるものに触れたきっかけだったんですね。

新井 ── そうですね。その後、Webでいろいろなサービスに触れました。例えば「関心空間*4」は、作られた方をよく知っています。あのナンシー関*5さんも匿名で参加されていた噂があるくらいで、楽しかったです。

しかし、どのサービスでも多くの人数が参加してくると、突然つまらなくなってしまう。規模が膨大になると、面白い情報が埋まってしまうという現象があります。

津田 ── それまでなら掘り出さなくても、面白い情報を雑誌的に見ていれば良かったのが、自分で情報を掘らなくてはいけなくなってしまうということでしょうか。

新井 ── ええ。その掘り出しに時間が掛かるようになると、最初のエヴァンジェリスト(伝道師役)たちは他のサービスに移住しますよね。

津田 ── ネットで流通している「コミュニティの一生」というコピペのテキスト*6があるんです。面白い人があるコミュニティで面白いことを始める。次にそれを見たい人が集まってくる。そのうち後から来た人が多数派になって、幅を利かせるようになる。

そうすると、サロンみたいな形で面白い人たちがやっていた知的なやり取りができなくなったり、変な誤解で"炎上*7"したりすることが続いて、最初にいた人たちが「もうここは終わりだな」って他に去っていく話なんです。

人はすごく増えるけど、結果的にコンテンツがつまらないものばかりになって、コミュニティとしては衰退していくという話です。

新井 ── サービス自体も移り変わってしまいますね。

津田 ── 僕も2004年ぐらいからmixi*8を始めて、2年ぐらい楽しくやっていたのですが、なんだか途中からつまらなくなった。盛り上がってきたいい状態の時、いかにインフラのように固定させるかが勝負だと思います。

情報インフラになったTwitter

新井 ── Twitter*9も津田さんが"Tsudaる*10"という言葉を誕生させた頃は、関心空間の最初と同じで「情報推薦」がとても知的で面白かった。参加している人のリテラシーが高かったので楽しかったんです。

おそらく、この後にお話しする「現在の人工知能はどうしてこんなに賢くないのか」という課題にもつながる話題なんですが、今日は津田さんに「Twitter、飽きましたか?」というのをまず聞こうと思って。

津田 ── いきなり、本質的かつ根本的な質問です……まぁ、半分飽きていて、半分まだ結構いけるかなというのが正直なところです。

Twitterの副社長がはっきり言っているんですね。「我々のことをソーシャルネットワークと思ってくれるな、我々は『ニュースネットワーク』なのだ」と。情報を流すためのネットワークであり、あまり交流するためのものではないとハッキリ発言している。僕はそれが唯一無二のTwitterの特徴だと思っています。

Facebook*11だと、いろいろな人とつながったとしても5,000人の上限があり、基本は、友達内での交流なんですね。

それに対してTwitterは情報発信で、今だったらジャスティン・ビーバーに5,000万人のフォロワーがいる。何かの情報を発信したら、それが5,000万のフォローをしている人に、同時に配信されるわけです。

普通のWebサーバーで言うと、5,000万人が同時にアクセスして、1つの情報を見ようと思ったら、100%落ちるわけです。動画サイトだと、せいぜい2,000人ぐらいしか同時にさばけない。

でも、Twitterは究極の「知の分散システム」を構築している。1秒後にはもう検索のインデックスに載っているんですから。

[ 脚注 ]

*1
ムギ畑: ワーキングマザーおよびその予備軍の女性のための無料会員制インターネットサイト。http://www.mugi.com
*2
eラーニング: IT(情報技術)を使った学習ネットワークや国内では2001年に政府が発表した「e-Japan構想」が知られる。
*3
共有知: 組織や社会で共有される、形式知(数値や文字へ簡単に置き換えられる知識)および暗黙知(経験則のような知識)のこと。
*4
関心空間: 参加メンバーが、自身の「関心ごと」を投稿することにより、趣味や興味の近いユーザー同士で交流できるコミュニティサイト。2001年サービス開始。現在は株式会社SIISが運営する。
http://www.kanshin.com
*5
ナンシー関: テレビ番組と芸能人の批評で知られたコラムニスト、消しゴム版画家。2002年没。
*6
「コミュニティの一生」というコピペのテキスト: おおむね、このような内容のテキスト。「面白い人が面白いことをする → 面白いから凡人が集まってくる → 住み着いた凡人が居場所を守るために主張し始める → 面白い人が見切りをつけて居なくなる → 残った凡人が面白くないことをする → 面白くないので皆居なくなる」
*7
炎上: ネット掲示板やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで拡散した情報に、批判のコメントが殺到する状態。2013年、Twitterではアルバイト店員による不適切な写真投稿が相次ぎ、炎上を巻き起こした。
*8
mixi: 株式会社ミクシィが運営する国産SNS。2004年サービス開始。当初は18歳以上の利用に限定、既存メンバーからの完全招待制を採用していた。
*9
Twitter: 140字以内の「ツイート(つぶやき)」と呼ばれる短文を投稿するミニブログ。ツイートを受け取りたいアカウントをフォロー(登録)するコミュニケーションが特徴。2006年サービス開始、米ツイッター社が運営。
*10
Tsudaる: 記者会見の発言などを140字以内の要約にまとめ、Twitterを通じて中継する行為。津田大介氏がジャーナリスト活動にTwitterを活用し始めたたことから定着した。
*11
Facebook: 2004年、ハーバード大学に在学中のマーク・ザッカーバーグらがスタート。「友達」の申請と承認を重ねることで、人的ネットワークを築くことが目的。2009年にMySpaceを抜いて世界最大のSNSとなった。日本語化は2008年。2014年4月現在、「友達」の上限は5,000人。Twitterのような文字列による検索はあえて実装していない。

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