No.006 ”データでデザインする社会”
Topics
経済

消費者、企業、パブリックのための制度設計

パーソナルデータの定義とその扱いについては、多国籍企業による国を超えたデータの管理もあることから、海外の制度とのすり合わせも必要となってくる。政府の「パーソナルデータに関する検討会」で制度的な整合性を考慮するとされていた「EUデータ保護規則案(2014年4月に欧州議会本会議で採択の見込み)」の動向や、アメリカの米国消費者データプライバシー権利章典(2012年2月公表)などが注目されている。またオープンデータの推進など、情報関連の政策で先進的な取り組みを続けるイギリスでは、midataという新しい仕組みが実証実験されている。

これは、政府、消費者団体、企業が共同で進めているプロジェクトで、消費者に、企業・政府の持つ個人データに自由にアクセスできる権利を与えるというもの。この仕組みのもとでは、たとえば電力会社は、各消費者の電力利用データを保持しているが、消費者は必ずそのデータにアクセスでき、そのデータを閲覧・加工するなどして、自らの電力消費をより効率的なものに改善できる。また、消費者の利益とともに、企業や国もそのデータを一定の制限のもとで利用し、新しいサービスの開発のために利用するなど、何らかの利益を得ることができる、といった仕組みである。

日本では、これに類するものとして、"情報銀行"という仕組みが東京大学 空間情報科学研究センター教授の柴崎亮介氏を中心に提案されている。

http://shiba.iis.u-tokyo.ac.jp/research/contextaware/pdf/infobank.pdf

仕組みはこうだ。Aさんは"情報銀行"に口座を開設し、そこにパーソナル情報を預けることができる。または企業が持っているAさんのパーソナルデータを預けることを許可する。企業はそのデータを匿名化した上でビジネスに活用し、新しいサービスを消費者に提供したり、あるいはポイントという形でAさんに見返りを提供する。Aさんは、自分にとって利益のあるサービスだけに、データの提供を許可することができ、利益が無い、あるいは不利益を被ると判断した企業にはデータを提供しない、という選択がワンストップで可能になるという仕組みだ。例えば、電力会社が持っているAさんの電力利用データを、省エネ製品の製造会社であるB社が利用、分析し、Aさんに対して、「この省エネ冷蔵庫を使えば、電気代が半分になりますよ」という情報を提供する、などといったサービスが可能になる。

パーソナルデータを企業や国が利用したり、管理することについての反発は根強いものがある。特に日本では、国も企業も、その利用を"パブリック"に還元していくという意志や意識が、たとえばイギリスのそれと比べると小さいように思われる。パーソナルデータは、その利用によって個人にとっても社会にとっても大きな利益をもたらす可能性がある。たとえば先にあげた個人の電力利用のデータなどは、効率的なエネルギー利用や資源配分などに活用することができるし、また個人の医療情報などは、治療研究の促進や、効率的な社会保障政策の設計などに寄与するであろう。プライバシー保護の視点と同時に、こうした社会全体の利益のためのパーソナルデータの活用という視点が必要であろう。消費者と業界の利害調整の結果、複雑で使いにくい制度となってしまうことを避け、両者の利益を含めた社会全体のパブリックな利益を可能にするような制度設計を望みたい。

[ 脚注 ]

*1
「民間の個人情報売買解禁へ 政府、新事業創出を後押し」日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO48940300Z21C12A1EE8000/
*2
参考文献:http://d.hatena.ne.jp/redips/20140308/1394242091
*3
個人情報」等の定義と「個人情報取扱事業者」等の義務について(事務局案)
<詳細編> http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pd/dai7/siryou1-2.pdf
*4
「パーソナルデータに関する検討会」での議論に対する意見書」一般社団法人新経済連盟
http://jane.or.jp/uplode/topic244/topic_1.pdf

Writer

淵上 周平(ふちがみ しゅうへい)

1974年神奈川県生まれ。
中央大学総合政策学部にて宗教人類学を専攻。
編集/ウェブ・プロデュースを主要業務とする株式会社シンコ代表取締役。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.