No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
Cross Talk

すべてのデバイスにSIMが入る

石川 ── クルマの可能性として面白いのが、5Gによる「車車間通信」です。例えば、前を走っているクルマが路上に落下物を見つけて急ブレーキを踏んだら、後ろの車にも伝わって事故が避けられるといったこともできますから。

さらに道路とクルマが通信する「路車間通信」もできるようになれば、道路のあり方、交通のあり方も変わってくると思います。

ただし、導入するのはまずピンポイントの空間ですね。大学のキャンパスや過疎の村で自動運転のバスを走らせるといったものになるでしょう。市街地や高速道路で走るというのはまだ先かなと。

森川 ── そうした時、やはり価格というのは重要になります。フランスのベンチャーが数年前につくったスマートペダルは、加速度センサやGPS、発電装置を備えた自転車用ペダルでした。SIMカードを入れて通信できるので、盗難にあった場合にも教えてくれるんですね。5年使おうが、10年使おうが、通信料込みでおよそ2万円という価格設定です。ヨーロッパでは、3Gがあるとそのくらいの価格にできるというインパクトがあった。

それを見ると、将来的には1万円のデバイスにはSIMカードが入ってくるだろうと予想できます。1万円という価格帯なら、結構いろんなデバイスがありますよね。それらに全部SIMカードが入ったらどういう世界が生まれるのか。考えると面白いですね。

石川 ── 先週はベルリンに行っていたのですが、その時にソニーが発表したワイヤレスヘッドホンは、ユーザの状況を判断して最適なノイズキャンセルをするものでした。飛行機に乗ったら気圧の変化を感じて機内に最適なように、歩いている時は振動を感じて人の声が聴こえるようにノイズキャンセルするんですね。

このように知能化されたヘッドホンは、将来的にSIMカードが入れられて通信可能となり、今の状況というものをより的確に判断するようになるはずです。

森川 ── SIMが入ると結構いろいろなものが変わるかもしれませんよ。今では当たり前になっている製品も、ほとんどの人は登場するまで想像もできませんでした。言われてみるとそうだよな、という感じで。

石川 ── 来週の9月12日(対談収録日は9月初頭)に発表されると言われているApple Watchの新製品には、eSIM(Embedded SIM:リモート操作で通信事業者の切り替えができる次世代SIMチップ)が入ると予想されています。しかも、スマホで使っているのと同じ電話番号が使えるようになるという話です。ジョギングに行く時にスマホを家に置いていっても、Apple Watchで電話もメールも受けられるし、Apple Payにも対応しているので、走り疲れたら財布がなくてもバスで帰って来られる。

こうなってくると、スマホありきだった社会が少し変わってくる気もします。電話や時計というのはあくまで1つのステップというか、この先、いろんなものに進化するものなのでしょう。

石川 温氏

製品が5Gの普及を後押しするか

── ここまでの話で、しばらくは4Gと5Gが共存する社会が訪れるとわかりました。

森川 ── そうですね。4Gが普及している中を、少しずつ5Gがピンポイントで増えていくイメージでしょう。

石川 ── 過去を振り返ると、4Gの時もピンポイントでいいという発想でした。都市部で4Gを広め、地方では3Gでもしっかりネットワークをつくるといった設計でした。

しかし、そこにiPhoneが入ってきて「LTEの広さはどれくらいか」というキャリア間の競争になりまいた。とにかくどこでもLTEという表示が出なければいけない、ということになり、ドコモは全国でLTEを使えるようにしようと考え方をあらためました。

5Gはピンポイントで使えるようにするというのが現状での正解なんですが、例えば、アップルが2020年に向けて5G対応のiPhoneを出したりすると、再び同様の競争が起きて、全国で一気に5Gを使えるようにする機運が高まるかもしれません。

アップルとしても5Gの技術が欲しいと思いますし、ドコモとしても今までに開発したさまざまな技術を世界に広めたい思いもあるでしょう。両社とも、実はいろいろ考えているのではないのかと思います。

【後編のあらすじ】

後編では5Gが一般化するにあたり、これからの研究分野に求められるものを、森川教授が「イノベーションを生む条件」から語ります。一方、石川さんは「スマートフォンの進化」をIoT社会の到来と絡めて考察。2020年に向けたバリアフリーの観点を盛り込んだ社会インフラの設計についても、二人が意見を交わします。

対談を終えて

Profile

森川博之(もりかわ ひろゆき)

1965年生まれ。東京大学大学院工学系研究科教授。

1987年東京大学工学部電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。博士(工学)。1997年東京大学大学院工学系研究科助教授。1999年東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授。2006年東京大学大学院工学系研究科教授。2007年東京大学先端科学技術研究センター教授。2017年4月より現職。
IoT(モノのインターネット)、M2M、ビッグデータ、センサネットワーク、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究開発に従事。
電子情報通信学会論文賞(3回)、情報処理学会論文賞、ドコモモバイルサイエンス賞、総務大臣表彰、志田林三郎賞など受賞。
OECDデジタル経済政策委員会(CDEP)副議長、新世代M2Mコンソーシアム会長等。総務省情報通信審議会委員、国土交通省研究開発審議会委員、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員等

石川温(いしかわ つつむ)

1975年生まれ。ジャーナリスト。

1998年中央大学商学部卒。同年日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。「日経トレンディ」編集部で、ヒット商品、クルマ、ホテルなどの取材を編集記者として行った後、2003年に独立。
携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材。キャリア、メーカ、コンテンツプロバイダだけでなく、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの海外取材、執筆活動を行っている。
著書『ケータイ業界30兆円の行方』『グーグルvsアップルケータイ世界大戦』、『スティーブ・ジョブズ 奇跡のスマホ戦略』『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』ほか多数。
ニコニコチャンネルでメルマガ「スマホ業界新聞」を配信中。twitterアカウントは@iskw226。

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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