No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
Cross Talk

技術だけでは世界で勝てない

森川 ── 石川さんのようなジャーナリストの立場からご覧になって、5Gに関する国の動きなど「本当にこれでいいの?」と感じていることはありますか。

石川 ── それはもう、いくらでも。通信行政に関して、日本はワンテンポ遅れているという印象が強いです。5Gでもそれは同様で、先ほどの大学の話ではありませんが、官庁にもエージェントを入れた方がいいのかなと思います。

森川 ── 日本は技術開発に予算が付きやすいのですが、もっといろいろな人に5Gのことを伝える広報だとか、さまざまな業者の方々と盛り上げていく方策を練る企画とか、そうしたことにお金を使うべきだなと感じます。技術開発だけではもったいないことになるな、と。

例えば、近年ドイツで進めている「インダストリー4.0」の動きがありますよね。ドイツ政府はこの政策のために300億円を出しているのですが、日本のシンクタンクの人に聞いたら、どうも技術開発費用がメインではないらしい。それではどこにお金をかけているのかというと、会合費と懇親会費なんだそうです。ドイツは本気なんだ、と思いました。5Gでもそれだけ会合費と懇親会費を使えたら、かなり普及しますよね。

森川 博之氏

石川 ── 本当にそうかもしれませんよ。5Gはすでに総務省の管轄を越えているというか、どれだけ多くの業界と結びつけるかで成否が決まってくると思うので。

森川 ── そういうところが日本はとても厳格なお国柄ですが、そのままでいいのだろうか。これは真面目な話として、いつも永田町の人に訴えているんです。

国際会議の舞台でも、日本企業の人たちは朝から晩まで会議に出ています。もちろん海外の企業にもそういう方はいますよ。でも、会議なんか出席せず、ランチとディナーとバンケットしか出ないメンバーもいるんです。日本ではそういう人物を「仕事をしていない」とみなしてしまうことが多いけれど、海外ではそこにリソースを投入している。何が重要なのかをそろそろ見直してもらいたいところです。

石川 ── 実際に、その点で海外に負けていますよ。机の下で握手するくらいじゃないとね。技術云々というよりも、人の繋がりで物事が動いていく感じがしますから、5Gの世界は。

失敗を恐れずに済む環境を

石川 ── もう1つ、日本に足りないものを挙げるとするなら、やはり新しいことへチャレンジする姿勢ですよね。チャレンジした人の足を引っ張るのではなく、全体で盛り上げた方が、社会の利益に繋がるだろうとは個人的に思います。

── 日本は学問の世界でも、極端に失敗を恐れるような社会だったりするのでしょうか?

森川 ── 極端とまでは言いませんが、その傾向はあると思います。研究者も技術者も、失敗を恐れるあまり「守り」に入ってしまっているようなところはありますから。

石川 ── 海外の方が、失敗してもやり直しが利くような文化なので、いろいろとチャレンジできるのかなと。日本の社会では、1回失敗するとそこからの復活がなかなか難しかったりする。もっと復活できるような環境がつくれるといいなと思います。

もちろん、日本にも新しい動きは出てきていて、その1つが社内公募です。社員に公募で手を上げさせて「こんなものをつくりたい!」というものをつくらせ、製品化して売るという制度ですね。ものにならないこともありますが、そこでの失敗は咎められません。

ソニーのような大きい会社でも、新しいチャレンジをしたいと思う社員に対して、環境やお金を提供するようになっています。こういった例が増えていくといいなと思いますね。

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