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── テクノロジーには生来備わった性質があって、それに基づいて世界が形作られていくという考えもありますが、そうではないということですね。
テクノロジーを定めているのは、人間です。だから、人間が何を優先しようとするかによって、その方向性が変わります。今、テクノロジーが提供している最大の価値は最適化にまつわるもので、実際たいへんな威力を発揮しています。
しかし、私はそれがいいことだとは思っていません。最適化へ向かおうとする動きは常にありますが、職人的技能、経験による高度な手作り作業をおこなうクラフトマンシップのような、それに対抗する力として切望されているものもある。テクノロジーに対抗するのは容易くはありません。しかし、彼らが本当に対抗する相手はテクノロジー自体ではなく、その下に流れる価値観なのです。
── すでに人工知能(AI)が、多くのテクノロジーに組み込まれ、今やテクノロジー自体が自動化されるようになっています。これをどう見ていますか。
アルゴリズムを作る方法は二通りあります。一つは、人間が生み出す。これは、ある人間の世界観を信じられないようなスケールで適用するということであり、ちょっと怖くなります。しかし、もう一つの、人間の介在なしに作られるアルゴリズムは、もっと怖い。にもかかわらず、こちらの方がどんどん優勢になってきているのです。
アルゴリズムの一つに「遺伝子的アルゴリズム」というものがありますが、これは特定の前提や世界観を始点にしません。遺伝子的アルゴリムズなどの機械学習は、終点だけがわかっていて、そこへ行き着くために手段を尽くしていくのです。車の空気力学的特性を最大化しようとするケースが、わかりやすい例でしょう。最初に空気力学の原則などなしに、ただ空気抵抗を減らしたいと入力してボタンを押せばいい。そうすれば、人工知能がそこに行き着く方法を考えるのです。
ただし、ここで理由は説明されません。車の空気力学ならそれで問題ないかもしれませんが、例えば10000人の囚人から誰が仮釈放を受けるべきかをコンピュータに考えさせて、この5000人だという回答が出た場合はどうでしょう。回答はわかったけれども、そこに至る理由を尋ねることができないのです。人間相手ならば、どうしてその5000人を選んだのかと質問することもできますが、コンピュータはそれを聞かれても理由がわからない。つまり、解釈可能性がなくなっていくのです。
── 解釈可能性とは、人間がそこで起こっているプロセスを理解できるということですね。
そうです。懸念すべきことに、現在、我々の日常生活はどんどん解釈不可能なシステムに委ねられるようになっている。だからこそ、文化的な活動が重要になっているのです。
アーティストなら、その解釈を試みるでしょう。また、世界に存在するものに対して説明を与えようとする。かつてのアーティストたちは、なぜ雷が鳴るのか、なぜ人は病気になるのかといった自然の中で起こるミステリを扱っていたわけですが、今はそれとは違ったミステリが存在している。そうしたミステリを対象にするアーティストに、私は最も興味があります。
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── GPS、QRコード、ある種のSNSなど、その時々のプロジェクトにどんなテクノロジーを選ぶかは、どのように決めるのですか。何か定まった条件があるのでしょうか。
勘です。それ以上のものはありません。