No.015 特集:5Gで変わる私たちのくらし
Scientist Interview

5G通信につながったセンサで、われわれが自動的に行うようになること

2017.10.31

ケヴィン・スラヴィン
(The Shed チーフ・サイエンス・アンド・テクノロジー・オフィサー)

テクノロジーは、人間の生活を効率化してきたが、われわれはその本当の姿を知っているのだろうか。その活動で、「目に見えないものを可視化する」ことに携わってきたケヴィン・スラヴィン氏は、まさにそうした便利さや最適化だけでないテクノロジーのあり方を表現して注目を集めてきた。文化活動は、テクノロジーと科学の社会的価値を高めるためにあると語るスラヴィン氏は、現在は人間がテクノロジーによって微生物を含んだ総体として明らかにされてくる時代だと言う。そして、5G時代にわれわれは、まるでセンサのようになって興味深い副産物を生み出すことになりそうだ。

(インタビュー・文/瀧口範子 写真・Jill Lotenberg)

── スラヴィンさんは、早くからテクノロジーと表現の可能性に挑んで作品を作ってきました。しかもその方法は、見えないテクノロジーのシステムを、見えるようにするというアプローチです。
つまり、テクノロジーとは本来目には見えない仕組みを提供するのですが、スラヴィンさんはその仕組みをアート的な取り組みによって可視化するだけでなく、ゲーム的な手法を用いて、ただの機能性を超えたもっと面白い体験に変えています。
例えば2004年には、まだ新しい技術だったGPSの存在が感じられるようなゲームを考案しています。それは、『ポケモンGO』にも先行する位置ベースのゲームだったと言われています。
そのような、スラヴィンさんが「見えないものを可視化する」ことにこだわるのはなぜですか。テクノロジーの存在を表現するためでしょうか、それとも、テクノロジーのあり方自体を変形させたい、といった願望があるのでしょうか。

面白い質問ですね。僕が関心を持っている「見えないシステム」は、人間によって作られたものもあれば、自然によって作られたものもあります。いずれにしても、我々はこうしたシステムに囲まれた世界で育ってきたわけです。にもかかわらず、我々がその世界を説明するやり方はまったく適切ではありません。基本的に世界は物質を通して記述されるわけですが、そうしたレンズは今や我々の生活を語るのに適していないのです。

── 具体的には、どんなところが適していないのでしょうか。

一つには、すでにあらゆるものがコンピュータ化され、それがこの世のすべてのものにインパクトを与えていることが挙げられます。大小の差はあっても、アトム(原子)で構成されたものは、すべてビッツ(電子)によって影響を受けているのです。

また、これまで我々は、目に見えるものに基づいて世界を理解してきました。100~150年前に起こった光学的な発明によって、その見えるものはどんどん小さいものにまで及んでいます。しかし、現在のような計算的ゲノミクス*1の時代においては、もっと違った方法で生命が捉えられるようになっている。

そうした目に見えないシステムを扱うことの面白い点は、それ自体を見せるのは不可能で、そのあり方を表現することしかできないということです。例えば自動走行車なら、そのアルゴリズムを実際に見せたところで何も得るものはありませんが、それを意味あるやり方で代弁することはできます。文化的な行為が重要であるのも、まさにそれが理由です。

あらゆるものの根底にあるシステム自体を捉えることは現実的に不可能なので、想像力が必要となります。しかし、想像されたものも現実であり、アーティストが強みを発揮するのもそこなのです。

── 現在、テクノロジーはスピードや効率化のために利用されることがほとんどですが、それとは異なった側面を表現しようとしているのですか。

そうですね。2017年の現時点において、テクノロジーは道具的に利用されています。効率化や最適化がその主な目的で、食料品をすぐに届けてもらうとか、車を正しい方向に向かわせるとか、株をうまく取引するといったことです。

しかし、人生における喜びや意味は、実は効率的でないものによって生まれている。誰かとキスをしている時、あるいは美味しい食事を味わっている時に、「ああ、早く終わらないかな」とは思わないでしょう。なぜか。それは、人生の価値が効率的でないところにあるからです。

ケヴィン・スラヴィン氏

── 効率化できないところに、意味があるということですね。しかし、例えばこれ1本で1日の栄養が足りるというタンパク質を主体とした飲料が、テクノロジー関係者の間で流行っているように、食事すら効率化したいという人々もいます。

それは、テクノロジーの特質を食事にまで応用してしまった顕著な例ですね。一方、我々が行っている挑戦は、どうすれば社会における科学とテクノロジーの価値を上げることができるか、ということです。テクノロジーは単なる道具であるという考えを脱して、人々がその存在を信じ、それを守ろうとするような方向に向かわせなければなりません。

[ 脚注 ]

*1
計算的ゲノミクス:計算的解析を用いて、ゲノム配列やDNAやRNAなどを含む関連データから生物を解読する学問

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