No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載02 魅惑の赤い星へ。人とロボットが挑む火星探査の最前線
Series Report

また、1990年代からは米国やロシア以外の国も火星探査に乗り出した。その筆頭になったのは日本で、1998年に「のぞみ」を打ち上げている。しかし道中で故障し、火星にたどり着くことはできなかった。

欧州は、2003年に「マーズ・エクスプレス」を打ち上げ、同じ年のクリスマスに火星をまわる軌道への投入に成功した。マーズ・エクスプレスには「ビーグル2」という小型着陸機が搭載されていたが、着陸後に機体が故障し、探査活動はできなかった。一方、マーズ・エクスプレス本体は2016年6月現在も、まだ活動を続けている。この他、中国も2011年に、前述したロシアのフォボス・グルントに同乗する形で探査機「蛍火一号」を打ち上げたが、ともに失敗している。

2016年6月現在、火星探査機は世界各国から55機が打ち上げられ(航行中のものを除く)、そのうち完全な成功を果たしたのは27機、部分的な成功は2機と、成功率は50%ほどしかない。これほどまで火星探査で失敗が多いのは、火星までの飛行時間は最短でも半年と非常に長く、探査機がそれだけ長い宇宙航行に耐えなければならなかったり、軌道投入や着陸がやり直しのきかない一発勝負であったりなど、技術的に難しいことが多いのが理由である。そうしたハードルの中には、あらかじめ想定できないことや、地上で試験ができないことも多い。潤沢な予算と人員をもつ米国ですら、何機も失敗を経験していることがその証拠である。それでも、失敗のたびに新しい知見を得て、また宇宙で使う部品などの技術が発達したおかげもあり、近年では徐々に成功率が上がっている。

総勢7機の探査機がひしめく火星

幾多の失敗を乗り越え、現在火星では、過去最多となる7機もの探査機が活動を続けている。ちなみに、月で活動中の探査機は3機であり、世界各国がいかに火星探査に熱を入れているかが伺える。

現在火星で活動中の探査機のうち、最も古参なのが、2001年に打ち上げられたNASAの「2001マーズ・オデッセイ」である。すでに15年もの間火星を周りながら探査を続けており、また地表のローヴァーと地球との通信を中継する役割も務めている。

2003年には、新しいローヴァーとして、NASAの「スピリット」と「オポチュニティ」が打ち上げられた。両機は2004年に火星に相次いで到着し、火星を駆けまわって探査を行った。スピリットは2011年に運用を終えたが、オポチュニティは現在も活動を続けている。翌2005年には「マーズ・リコネサンス・オービター」の打ち上げに成功し、2006年に火星をまわる軌道に入った。この探査機は高性能なカメラが特長で、火星の地表をつぶさに観測している。

2011年には、同じくNASAが新しいローヴァーの「キュリオシティ」を打ち上げ、翌2012年に火星に着陸。キュリオシティはスピリット、オポチュニティよりも2倍以上大きく、より高性能な観測機器を搭載している他、原子力電池を電源にすることで、昼夜や四季を問わず活動できる能力をもっている。これまでに7km以上を走行し、地表のさまざまな場所を探査している。さらに、2013年には「メイヴン」を打ち上げ、翌2014年に火星に到着。メイヴンは火星の大気に重点を置いた観測を行う探査機で、「太陽から飛んでくる太陽風によって、火星の大気は1秒間に100gほどはぎ取られ続けている」という観測結果を、2015年11月に発表した。

従来のローヴァーより2倍以上大きく、高性能な観測機器を搭載した「キュリオシティ」の図
[図6] 従来のローヴァーより2倍以上大きく、高性能な観測機器を搭載した「キュリオシティ」
(Image Credit: NASA)

また、同じ2013年には、インド宇宙研究機関(ISRO)の火星探査機「マーズ・オービター・ミッション」が打ち上げられ、こちらも2014年に火星へ到着している。同機はインドにとって初の火星探査機、惑星探査機で、火星に探査機を送り込むことに成功した国は、米国、ソ連、欧州に続き4例目。また、初回の挑戦で成功したのは、欧州に続いて2例目となる。

2000年代には、すでに運用終了した探査機を含めると12機が打ち上げられ、そのうち失敗は3機で、成功率は75%と、かつての失敗続きだった時代から大きな飛躍を遂げた。また、欧州やインドといった新しい国が火星探査に挑み、さらに初挑戦にして初成功を収めたのも、特筆すべき成果であろう。

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