No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載01 クルマの安心・安全技術
Series Report

死角をゼロに

ドライバーから見て、ボンネットの近くにある物体は死角になって見えない。死角は今のクルマでは未だかなり多い。そこで、死角をなくすために、カメラを搭載してドライバー席から見えるようにする開発も進んでいる。例えば、バックモニターがすべてのクルマについていれば、身長の低い幼児などの死亡事故を防ぐことにつながる。

バックモニタリング搭載車は国内ではまだ義務付けられていないが、米国では2018年からすべての新車に義務付けられるようになった。これまでは、カーナビのモニター画面で見る仕組みが一般的であったが、ルームミラーに液晶パネルを取り付けても、同じ効果は得られる。日産自動車は、ルームミラーに液晶を埋め込んだ「スマート・ルームミラー」を開発(図5)、いくつかの車種に搭載を開始している。

日産自動車が開発したスマート・ルームミラーの図
[図5] 日産自動車が開発したスマート・ルームミラー 通常ミラーと液晶モニターを簡単に切り替えることができる。車体後部のカメラ映像なら雨の日でも後方の視界はクリア。左はミラーによるもの。右は液晶画面によるもの。

日本では、これまで、日産の例にあるように、バックミラーを装着したうえで、バックモニターの併用が認められてきた。しかし2016年6月にはバックミラーを使わなくても、カメラと液晶画面で後方を見てもよいという法律が制定された(参考資料3*3)。このため、バックミラーを液晶モニターに置き換えることが可能になった。また、運転席の横のドアミラーでさえも、1cm角程度の非常に小さなCMOSカメラに置き換えれば、大きなドアミラーは要らなくなった。

鏡という反射ガラスと比べて、CMOSカメラのメリットは、魚眼レンズを使うことにより視野範囲を広げられることである。つまり死角をなくすことができる。ただ、魚眼レンズは画像が歪んで見えるという欠点があり、見えにくい。その欠点を克服するには、歪んだ画像・映像を、歪まないX-Y座標に変換する必要がある。

こういった考えで、クルマから死角をなくすための電子ミラーを開発しているのが、名古屋を拠点とする電装メーカーの萩原電気だ。同社は最近、ルネサスエレクトロニクスの半導体チップR-CarV2Hを使い、X-Y座標変換だけではなく、3画面同時表示や真後ろ左右の3面の合成映像、さらにクルマ周囲の接近物を検知する、といった機能までも実現している(図6)。つまり、これまでのミラーでできたこと以上の機能を実現しているのだ。

ルネサスと組んで電子ミラーを開発した萩原電気の図
[図6] ルネサスと組んで電子ミラーを開発した萩原電気

自動車の安全システムには、技術的な問題だけではなく、法制上の問題も絡んでいる。将来、自動運転が実現された暁には、事故対応など、あらゆる状況やシーンの想定と法制上の課題などが極めて多くなることが予想される。導入に向け、たとえ技術的な課題がクリされたとしても、社会が受け入れるために必要とされる問題は依然大きい。しかし、自動車メーカー、法律家、行政など社会を構成する人たちが実現に向けて議論していくことになるであろう。連載の3回目では、最新の安全技術を紹介し、クルマの事故ゼロ社会に向けた試みを紹介する。

[ 参考資料 ]

*1
1. スバル アイサイト搭載車の事故件数調査結果について(2016/01/26)
http://www.fhi.co.jp/press/news/2016_01_26_1794/
*2
2. スバルオフィシャルウェブサイト
http://www.subaru.jp/eyesight/function/
*3
3. バックミラー等に代わる「カメラモニタリングシステム」の基準を整備します、国土交通省 (2016/6/17)
http://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000211.html

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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