No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載02 魅惑の赤い星へ。人とロボットが挑む火星探査の最前線
Series Report

ブッシュとオバマの宇宙政策と火星

結局、アポロ以後に有人火星探査が実際の計画として語られ始めたのは、人類が月に立ってから35年も経った2004年のことだった。

この年の1月14日、第43代米大統領ジョージ・W・ブッシュは「新宇宙政策」(Vision for Space Exploration)を発表。その中で、2020年に再び有人月探査を行い、そしてそれを足がかりにして火星を目指す、という方針が示された。

この新宇宙政策の下、NASAは「コンステレーション計画」を立ち上げ、新型有人ロケットの「エアリーズI」と、超大型ロケット「エアリーズV」と、月や火星との往復飛行ができる新型宇宙船「オライオン」、そして月着陸船「アルテア」の開発を始めた。

しかしコンステレーション計画は、度重なる開発遅延や予算超過に苛まれ、また実現性に問題があるなどとNASA内外から批判が噴出した。

やがて、2009年に就任したバラク・オバマ大統領によって、米国の将来の有人宇宙開発を審議する有識者会議が組織された。そしてその中で、コンステレーション計画は中止すべきとの提言がまとまったことを受け、2010年2月1日にオバマ大統領はコンステレーション計画の中止を発表。これによりエアリーズIロケット、エアリーズVロケット、そして月着陸船アルテアは、開発途中で葬られることになった。

しかし、オバマ大統領は月や火星に行くことそのものを中止したわけではない。同じ年の4月、オバマ大統領は新しい宇宙政策を発表し、この中で2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込むという目標を掲げた。これはブッシュ大統領の宇宙政策よりもしっかりした方針の下で、時間をかけても着実に計画を進めようとしたもの。さらに月や火星といった目標を明確には設定せず、得られるであろう成果や将来性などから、火星に限らず、火星の衛星や、あるいは小惑星をも視野に入れ、一番魅力的な目標をじっくりと選ぶという方針が決められた。一見するとブッシュ大統領の政策から後退したようにも思えるが、その本質は時間と引き換えに、より確実な深宇宙への有人探査の実現を目指した内容と見るべきだろう。

そしてその新方針の下、NASAは新たに超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)の開発を始めた。またオライオンはコンステレーション計画から生き残り、開発が継続されている。

2016年7月現在、SLSは機体の設計やエンジンの試験などが、当初の計画からやや遅れつつも着実に進んでおり、2018年11月に初の試験打ち上げが行われる予定となっている。一方、オライオンは2014年12月に無人での試験機打ち上げに成功し、現在はSLSの初飛行で打ち上げられる2号機(こちらも無人)の開発が進んでいる。

オライオン宇宙船の図
オライオン宇宙船 (Image Credit: NASA)
オライオンや貨物などを打ち上げる超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」の図
オライオンや貨物などを打ち上げる超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」 (Image Credit: NASA)

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