No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載02 魅惑の赤い星へ。人とロボットが挑む火星探査の最前線
Series Report

まず月の小惑星へ、そして火星へ

2018年11月に予定されているSLSの初飛行では、オライオンの2号機を無人で打ち上げる。そしてオライオンは月の裏側をまわって地球に帰還する。これが成功すれば、2020年代初頭にも宇宙飛行士が乗った有人飛行が行われ、月を回る軌道に乗るというミッションが行われる。実現すれば、人類はアポロ計画以来初めて地球の周回軌道を飛び出す壮大なミッションになる。

そして2020年代中期には、SLSとオライオンは再び月へ向けて飛行する。ただし、その目的地は月そのものではなく、「月の近くまでもってきた小惑星」である。

小惑星というと、その多くは火星と木星の中間にある小惑星帯(アステロイド・ベルト)にあるが、中には「地球近傍小惑星」といって地球に近づく小惑星もある。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」もこの地球近傍小惑星の一つである。ただ、地球"近傍"小惑星とは言っても、常に地球の近くにあるわけではなく、大半はだいたい火星に行くのと同じくらい、あるいはそれ以上の手間がかかる位置にあるため、人が赴くのは簡単ではない。

そこで、逆に小惑星を月までもってくることで、人が行きやすくなり、なおかつ小惑星の科学的な探査もでき、そして宇宙飛行士にとって将来の深宇宙探査の予行練習にもなる。NASAではこの計画を「小惑星転送計画」(ARM, Asteroid Redirect Mission)と呼んでいる。

ARMは現在、2020年ごろに「小惑星を捕獲し輸送するための無人機」が打ち上げられる予定となっている。打ち上げられた無人機は数年かけて目標の小惑星に接近し、小惑星の一部を切り取って捕獲。そして帰路につき、2025年ごろに月の軌道に到達する。その小惑星が無事に配置されたのを待ち、宇宙飛行士が乗ったオライオンがSLSで打ち上げられ、人類は小惑星に降り立ち、直接見て触れて探査することになる。

小惑星の一部を捕獲する無人機の図
小惑星の一部を捕獲する無人機 (Image Credit: NASA)
月の軌道に配置された小惑星を探査する宇宙飛行士の図
月の軌道に配置された小惑星を探査する宇宙飛行士 (Image Credit: NASA)

その後の計画については、まだ詳細には決まっていない。しかしARMが順調に進めば、SLSやオライオンが、アポロ以来となる地球周回軌道を超える飛行に耐えられることが実証される。そして同時に、宇宙飛行士が長期の宇宙滞在に耐えられるのか、あるいはどういう対策が必要かといった知見も得られることになる。そうなれば、2030年代に目指している有人火星探査に向けた障壁のいくつかが取り除かれ、徐々に計画が具体的になることになるだろう。

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