No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載02 魅惑の赤い星へ。人とロボットが挑む火星探査の最前線
Series Report

ところが、この仮説はまた新たな謎を生み出す。火星よりも太陽に近いと、熱で水が逃げてカラカラの惑星にしかならないのなら、その火星よりもさらに太陽に近い、私たちの住む地球には、なぜ水があるのだろうか。

その謎を解く仮説の一つに、小惑星が運んできたというものがある。太古の昔、カラカラで乾いていた地球に、スノー・ラインの外側から含水鉱物や氷の状態で水を含んだ小惑星がやってきて、地球に衝突し、その結果地球に水がもたらされたというものである。

だが、どうすればそれが証明できるのだろう。どこかに、スノー・ラインの外側から、小惑星が水を運んできたという痕跡が残っていれば――。実は、その答えが眠っているかもしれない場所がある。それがMMXが目指す、火星の衛星である。

地球の水の起源の鍵を握るフォボスとデイモス

火星は「フォボス」と「デイモス」という2つの衛星をもっている。共に1877年に発見された天体で、大きさはフォボスが直径20kmほど、デイモスが直径10kmほど。軌道はフォボスのほうがデイモスより内側の、火星に近い軌道を回っている。

火星の衛星「フォボス」の図
火星の衛星「フォボス」 (Image Credit: NASA)
火星の衛星「デイモス」の図
火星の衛星「デイモス」 (Image Credit: NASA)

フォボスとデイモスがどのようにして火星の衛星になったのかはわかっていないが、大きく二つの仮説がある。

一つは、宇宙を飛んでいた小惑星が偶然火星に捕まり、そのまま衛星になったという説。もう一つは火星に小惑星が激突し、飛び散った破片が徐々に集まって衛星になったという説である。今のところ、どちらの説も十分にありうるとして結論は出ていない。

そこでフォボスとデイモスを調べ、もし火星の成分が見当たらなければ、前者の小惑星が捕らえられたという証拠になる。あるいは火星由来の岩石と小惑星由来の岩石とが混ざり合っていれば、後者の小惑星が火星に衝突した破片からできたことになる。

さらに、どちらの結論になるにせよ、もし小惑星由来の物質の中に含水鉱物や氷が見つかれば、その小惑星は過去に、スノー・ラインよりも遠くからやってきたものだということになる。つまりスノー・ラインより内側のカラカラだった惑星に、スノー・ラインの外から水を含んだ小惑星がやってくることが可能であること(そしてフォボスとデイモスは、その小惑星が運悪く火星に捕まるか衝突するかしてできたこと)、言い換えれば地球に水をもたらしたのは、スノー・ラインの外からやってきた小惑星だったということを裏付ける一つの証拠にもなるのである。

また、これが証明できれば、同じ理論は太陽系以外の、他の惑星系でも適用できることになる。いつか、地球と同じような経緯で水をもった系外惑星を発見できる日が来るかもしれない。

火星の衛星からのサンプル・リターンを狙う探査機「MMX」

MMXの想像図
MMXの想像図 (Image Credit: JAXA)

フォボス、デイモスがどのようにできたのか、そしてスノー・ラインより内側にある地球になぜ大量の水があるのか、という謎を解き明かすために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)が検討を進めているのが、「火星衛星サンプルリターン計画」である。現時点ではまだ「はやぶさ」や「あかつき」のような愛称はなく、Martian Moons eXplorer(火星の衛星の探査機)から「MMX」と呼ばれている。

MMXの理学側の取りまとめを行っているJAXAの藤本正樹教授は、MMXを「賢い」計画だと語る。

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