LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

電気的に自立していることの利点は、東日本大震災を考えるとわかりやすいでしょう。
東日本大震災の原発事故で、東日本では大規模に停電が起こりましたが、西日本はびくともしませんでした。それは東日本と西日本では周波数が異なり、それぞれ自立していているからです。周波数変換所を通じて電気的には接続していても同期はしていないのです。ムカデ競争の縄がゴムになったようなものです。では、各電力網をもっと小さな単位にし、蓄電池を活用することで自立させ、それぞれの網を1対nで非同期に接続してみたら災害に強い電力システムになるのではないか。そういうところから、デジタルグリッドの発想につながっていきました。

──地域間の電力網の連係をさらに強く大きくしていこうという考え方もあります。

同期した系統電力網をつないで巨大化していくというのは、規模の経済性の視点からは正しいでしょうが、事故が起こった時のリスクも大きくなります。一度巨大系統に事故が起きると、影響範囲が大きく、経済活動が麻痺してしまうことすら考えられます。修復にも時間がかかります。対処ができるという考え方もありますが、そうした戦艦大和のような巨艦大砲主義は、小回りの利く航空機に破れることになるかもしれません。

宛先を指定して電力を送れる「デジタルグリッドルーター」

──セル同士で電力を融通するといいますが、電力はそんなに自由に送ることができるものなのでしょうか?

電力ルーターの発想は、10数年前東北大学の豊田先生ほかが提唱し、様々な方式が生まれています。私たちが開発を進めているのはデジタルグリッドルーターという機器で、これを使ってセル間を接続します。デジタルグリッドルーターには、交流電力をいったん直流電力に変換するコンバーター、そしてこの直流電力を交流電力に変換するインバーターで構成されています。2種類の変換器を背中合わせに配置する構成をBTB(Back To Back)といって電力を自由に送ったり受け取ったりする設備として、すでに実用化されています。デジタルグリッドルーターのユニークな点はこれを3系統以上備えているところにあります。このような構成ですとBTB接続される経路が接続系統の数の2乗に比例して増えます。また、自励式の電力変換器というものを使いますので、接続先のセルに自由度の高い電力を供給することができます。各セルはそれぞれが独立した周波数、電圧になっていてかまいませんし、セルは何層にも多層化することが可能です。デジタルグリッドルーターは、電力の送り先をスイッチのように切り替えるものではなく、連続的に電力の増減を行いながら、切り替えていくことを特徴としています。近年は、パワー半導体と呼ばれる技術が急速に進歩しており、大電力の操作も可能になりました。

電気の同期識別
[図表2] 電気の同期識別
Photo Credit : 東京大学阿部力也特任教授提供資料を編集部にてリファイン(デザイン:bowlgraphics)

──複数系統のデジタルグリッドルーターがつながっていくことで、網の目のようなネットワークが作られるということですね。しかし、どうやって指定した宛先に電力を送ることができるのでしょう?

それぞれのデジタルグリッドルーターには、(インターネットで機器を識別するために使われる)IPアドレスのような番号を振っておきます。サービスプロバイダーというようなビジネス形態が生まれ、プロバイダーのサーバーから、どのルートにどれだけの電力を流すか、アドレスを指定することによって操作することができるようになります。複数のルーターを同時に動作させれば、目的地に電力を送り届けることができるわけです。このような指令を受けたデジタルグリッドルーターは、どのセルにどれだけの電力を送ったかをルーターの指令値、動作記録、測定値等を関連づけてすべてデータとして記録していきます。

──BTB接続された複数のセル間で電力を送るとなると、送電ロスが相当増えるのではないでしょうか?

後ほどお話ししますが、これについては面白い解決策を用意しています。

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