LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

電力が使い放題の「ブーストハウス」

──電力網となると、既存の電力会社も大きく関わってくることになります。発送電分離をはじめとする議論がありますが、実際のところ電力会社が動かなければどうしようもないのではないでしょうか? また、法律改正も必要になりますね。

発送電分離や法改正がなくとも、今よりきめ細やかなサービスを提供することができます。デジタルグリッドは現在の系統を補完しながら形づくられていき、系統とセルの間の取引が平準化されますから、電力会社が発電量をこまめに調整する必要がなくなります。ソーラー発電所からいきなり大量の電力が流れ込むのではなく、日/週単位でまとめて取引されるわけですから。そうなると、ピーク電力に合わせた無駄なインフラ投資も必要なくなり、コストダウンが可能になります。
そして、電力会社もサービスプロバイダーの運営を行って、収益を上げるところが出てくるでしょう。
デジタルグリッドルーター対応の機器は新たに投資する必要がありますが、これらは情報系であり、送配電系についていえば、日本はすでに十分以上のインフラが整っています。貯蔵はこれからですが……。

──デジタルグリッドが成立するためには、太陽電池パネルや蓄電池など、分散電源を備えたセルがたくさん存在している必要があります。これらの費用は誰がまかなうことになるでしょう?

デジタルグリッドの費用を最終的に負担するのは、エンドユーザーということになります。エンドユーザーのインセンティブを増すために、私たちが提案しているのが「ブーストハウス」というコンセプトです。これまでも、パソコンにせよ携帯電話にせよ、一般消費者が買える価格で魅力的な製品であれば、多少割高でも普及していきました。
このブーストハウスは太陽電池パネルと蓄電池を備えており、当然停電はありません。それだけでは楽しくないでしょうから、例えば高級料理店並みのピザが焼ける400℃のIHオーブンや、強力な掃除機が使えるし、シャワーからすぐに温水が出る、乾燥機も使い放題ということを売りにするのです。高齢化社会ではハウスエレベーターが標準になるかもしれません。

ブーストハウスのイメージ
[図表4] ブーストハウスのイメージ
Photo Credit : 東京大学阿部力也特任教授提供資料を編集部にてリファイン(デザイン:bowlgraphics)

日本の標準家庭の使用電力は、ピーク時は5000〜6000Wありますが、平均すると10分の1の500W以下です。そこで電力会社との契約は最低限の10Aにして蓄電池にためておきます。瞬時の高出力は蓄電池が生み出します。電気代は安いのにパワフルな電気が使えて快適な暮らしがおくれる。停電もない。こうした生活が満喫できるのであれば、新し物好きの人なら50万円くらいは出してくれるでしょうか。消費者が出してもよいと思える値段を先に設定して、それを目標に製品をつくっていくべきです。50万円だと高温IHオーブンは使えるけれど、シャワーや掃除機はいっしょに使えない。しかし、もう少しお金を出してステップアップすれば、全部いっしょに使えてさらに快適になる。となれば、頑張って働こうという気になるのではないでしょうか。

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