LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

電力をインターネット化するデジタルグリッド

デジタルグリッドが、自然エネルギーと共存できる社会と新しい市場を作り出す。

2011.12.18

阿部力也 (東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任教授)

スマートシティには、自然再生可能エネルギーをいかに有効利用するかという視点が欠かせない。そして、変動の大きい自然再生可能エネルギーを基幹電力網で扱うには、需要者側からの電力制御が行えるスマートグリッドが必要だと言われている。

東京大学大学院の阿部力也特任教授が提唱する「デジタルグリッド」構想は、スマートグリッドをめぐる議論に新たな一石を投じることになるだろう。分散電源間で自由に電力を融通できるデジタルグリッドは、スマートグリッド/スマートシティの枠組みを超え、新しいエネルギー市場を生み出そうとしている。

(インタビュー・文/山路達也 写真/MOTOKO)

「同時同量」が原則の電力網は、
自然再生可能エネルギーを扱いづらい

──3.11後、自然再生可能エネルギーの活用や、電力の需給調整を行う「スマートグリッド」の構築が話題に上るようになってきました。

自然再生可能エネルギーの資源量についてですが、米国エネルギー省(DOE)は100マイル(約160キロメートル)四方の太陽電池(変換効率10%)をネバダ州の砂漠地帯に設置したら、米国の全電力(800ギガワット)をまかなえると試算しています。いきなり全部太陽光にシフトするのは無理でも、こちらの方向に向かって舵を切るべき時期が来たのではないでしょうか。今は世界的に経済不況ですが、それでもまだ各国に余力があるうちに、進めるべきでしょう。

──太陽光をはじめとする自然再生可能エネルギーは変動が激しいため、そのままだと電力会社の基幹電力網に流すことはできないと言われています。そもそも、どうして基幹電力網は変動の激しい電力を扱えないのでしょう?

それは電力の発送配電の仕組みに起因します。火力発電所や水力発電所、原子力発電所のようにタービンを回す発電所では、三相交流発電を行っています。交流発電では、発電機の中で磁石を回転させてコイルに電流を発生させ、電力を取り出します(コイルを120度ずつずらして効率的に電力を取り出せるようにしたのが三相交流発電)。
この回転に応じて電気のプラスとマイナスが反転します。プラスとマイナスの反転が1秒間に何回起こるかという頻度は一定で、西日本で60回、東日本で50回となっています。これが周波数です。60ヘルツ、50ヘルツというような言い方をします。
発電と消費のバランスが崩れると周波数がずれてしまいます。電力会社は、消費を予測し、発電と消費がどの瞬間でも同じ大きさになるように発電機を運用して周波数を一定に保っているわけです。これを発電と消費の「同時同量」という表現で表します。周波数が変化すると工場等のモーターの回転数にも影響が出ます。工場の製造ラインが止まったり、製品の品質が悪化したりします。
自然エネルギーが大量に導入されると発電が短時間に急変するので周波数が安定しなくなります。発電が消費に比べて過大になり、周波数が上がりすぎたとします。これはすなわち発電機タービンの回転数が上がることになるのでタービンの羽根の破損を防止するためや発電機の温度上昇を防止するために、保護回路が働いて電気を遮断して発電設備を守ろうとします。これを電力業界では発電機がトリップすると言っています。たくさんの発電機が一斉にトリップすると、今度は逆に発電が足らなくなって、他の発電機に負担がかかる。そうなると、その発電機を守るためにまた保護回路が働いて発電機を切り離し……ということが連鎖的に起こり、大停電が起こるわけです。このように急激な変動を伴う自然エネルギーは大停電の引き金になるかもしれないと考えられています。

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