LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

──節電とはまったく逆のベクトルで、自然再生可能エネルギーを促進しようというわけですね。

そうです。やはり人間にはワクワク感が大事でしょう。
魅力的なブーストハウスを消費者に提案でき、そしてこれらにデジタルグリッドルーターが搭載されていれば、自然とセルが形成されていくわけです。ブーストコミュニティのようなまとまった単位で地域開発が進むかもしれません。デジタルグリッドルーター装備の家やコミュニティが増えてくれば、相互に電力を融通できるようになりますから、基幹電力網への負担も減ることになります。
まずは、個人の消費者が買いたい製品をつくり、それらが普及してくることで少しずつデジタルグリッドが構成されていくというステップで進めたいですね。

地方に、新しいビジネスが生まれる

──開発ロードマップはどのようになっていますか?

2012年から、デジタルグリッドルーターの相互接続実験を開始し、規格の国際標準化を狙います。先述したブーストハウスの実証実験も2012年から始め、1万世帯規模のブーストハウスで構成されるブーストコミュニティへとつなげていく予定です。
2011年9月にはデジタルグリッドコンソーシアムを設立しており、今後は様々な企業と共同でデジタルグリッドルーターやサービスの事業化を進めていくことになります。

──各セルが自律的にエネルギーのコントロールができるとなると、地方分権やスマートシティにも大きな影響を与えそうですね。

今の地方は分権化を進めたいと思っても財源がありません。結局、国の補助金なしでは何もできず、中央集権のままでいるしかありませんでした。
ところが、デジタルグリッドの仕組みを使えば、各地に分散電源ができ、電力を商品として取引できるようになります。北海道や九州なら風力発電で、地熱があるところは地熱という具合に。ある地方から別の地方に電力を送る際は、昼間に蓄電しておいて、夜間に送るということもできるでしょう。現在の日本の電力インフラは、真夏のピークをターゲットにつくられており、それ以外の時間帯では十分な余裕があります。

──今の太陽光発電のように、変動がある状態ですぐに送ろうとするから問題になるんですね。

そういうことです。蓄電池のようなバッファーを持つことで変動の多い自然エネルギーを各セル内で使いこなし、基幹系統に計画的に戻したり、逆に各セルにおいて電力が足りないときは基幹系統から安定的に電力をもらったりするという相互補完の関係が構築できます。
日本はどうしてもパーツ屋になろうとしてしまう。いい製品をつくるにはどうすればいいかと、細かいパーツの技術ばかり磨いているように思います。太陽光発電、電池、電力変換器、電気自動車など一品ずつは素晴らしいけれど、総合運用システムがないと競合者に追い抜かれてしまいます。大事なのは全体のシステムです。各プレイヤーがちゃんと利益を得られる仕組みをまずつくり、それからモノづくりを始めるくらいがちょうどいいと思います。

Profile

阿部力也 (あべりきや)
東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任教授

専門分野:電力工学、マイクログリッド、自然エネルギー、電力貯蔵。

1977年東京大学工学部電子工学科卒。電源開発株式会社(J-POWER)入社。
米国電力研究所(EPRI)派遣研究員、㈱アクティブパワー専務取締役(マイクロガスタービンベンチャー)、
2003年「風力発電電力系統安定化等技術開発」NEDO実証試験研究員、2006年J-POWER技術開発センター上席研究員等を経て、現職。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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