LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

原発からつくられた電気と、太陽光発電でつくられた電気を区別できる!?

──電力をやり取りする経路までコンピューターで制御できるというのは、まさにインターネット的ですね。

電力がどうやってつくられたのか、どういう経路を通ってきたのかも、すべてデジタルグリッドルーター自身が動作した結果としてルーター内部に記録されていきます。他の経路から来たものはその情報ごと記録されるので、電気が識別できることになります。いってみれば、それは電気に「色」がついたということになりますね。発電から最終的な消費地まで、全部追跡できるということです。

──各デジタルグリッドルーターの記録データを付き合わせることで、それが可能になるのですね。

インターネットのメールが消えたら、サーバー上のログを参照して追いかけたりしますが、電力についてもヘッダーやフッターを仮想的に付けてインターネット上のデータと同じように扱えるようになると考えています。電力と情報の融合した新しい世界が始まるのではないでしょうか。 さて、こうした世界が実現できると、何ができるか? 私は電力の取引が生まれるようになると考えています。 消費者が電源を指定して、電気を使うこともできるでしょう。原発に反対する人は少々高くなってもいいから太陽光を選ぶかもしれないし、工場はとにかく安い電気を欲しがるでしょう。

セル間での分散型電力取引
[図表3] セル間での分散型電力取引
Photo Credit : 東京大学阿部力也特任教授提供資料を編集部にてリファイン(デザイン:bowlgraphics)

──しかし、原発で作られようが、太陽電池で作られようが電気自体は同じです。

その通りです。お金で考えてみましょう。銀行にお金を預けて別の銀行から引き出す、株を売買する。同じ紙幣を移動させるわけではないのに、誰が稼いだお金かどこが借りたお金か、1円たりとも狂うことなく、全部わかるようになっています。
電力もお金と同じように「同質性」があるからこそ、こうした取引が可能になります。 例えば、自分が使っているEVのバッテリーは、残りがもう30%くらいしかないから充電しておきたい。でも、明日は天気が悪くて、自宅の太陽電池や風車では発電が期待できないから、どこかから買いたい、としましょう。
そうしたら、余剰電力のある誰かが売ってもいいですよと表明し、値段や電源の種類で交渉が始まる。契約がまとまれば、約束の期日に電力を受け渡すというわけです。

──そうやって個別に取引をすると、電力のロスが大きいのではないでしょうか?

株式や為替の取引をイメージするとよいでしょう。為替市場では毎日ものすごい金額が取引されていますが、いちいち紙幣をやり取りしているわけではありません。差額だけを決済しているのです。
電力についても同様で、証券取引所に当たるサービスプロバイダーが、電力の取引をマッチングさせて、差額の電力だけを送ればよいでしょう。差し引きゼロになる経路もあるでしょうから、電力の取引は行われているのだけれど、実際の電力自体は流さないということもありえます。

──なるほど、デジタルグリッドに多数のプレイヤーが参加して取引が活発に行われるようになれば、大部分の取引がセル内で決済されて実際にやり取りする電力はあまり多くはないということですね。

さらに面白いことに、電気には「マイナス金利」が付いています。というのは、お金は貯金しておけば利子が付きますが、電気は蓄電池に貯めておいても電力が減っていくだけなのです。ただ持っているだけでは損をしてしまうから、どんどん取引しようというインセンティブが働きます。

──確かに、太陽電池でたっぷり蓄電していてしかも晴天が続くなら、ためておいてもムダだから誰かに売ろうという気になりますね。

その通りです。市場が活性化するインセンティブになると思いますよ。 今の電力は、化石燃料、原子力、水力というように、あらかじめ内容と価格を決められたコース料理が提供されています。けれど、電力を自由に取引できる社会になれば、アラカルトメニューを注文したい人も当然出てくるでしょう。このニーズにも対応できるようになると、電力会社のサービスも多様化し、顧客との間でいろいろなプレイヤーがいろいろな思惑で利益を上げようとして活発な市場が形成されるでしょう。

──電力が通貨になるんですね。

そうです。そして通貨としての価値を担保するには、誰がいつどこからいくらでどれくらいの電力を買ったかという記録をきちんと残さなければなりません。スマートグリッドでは、電力を測るだけなので管理があやふやになるような気がしますが、デジタルグリッドでは、注文・動作・測定がセットになっているのでごまかしがききません。通貨と同等なものを扱うのでサービスプロバイダーは国家が認定した銀行のようなものになるでしょう。送電ロスがより少なく、取引マッチングが上手なサービスプロバイダーほど、お客の信任を得ることになります。このようにしてプロバイダー間の競争も生まれます。

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