No.002 人と技術はどうつながるのか?
Cross Talk

好奇心を研究の出発点に置けば、
思いがけないジャンプが待っている。

真鍋 ── 作品を作る動機として、ユースフルとビューティフルとインタレスティングという志向がある場合、僕はかなりインタレスティングに振れています。それをどうやって応用するかは全く考えずに、とにかく面白い作品が作りたいといつも考えてやっています。

暦本 ── ユーザー・インターフェースの研究者でも、「便利派」と「面白派」に大別されますね。便利派は「実用的な価値がないと最終的にダメ」みたいなことを言う。リハビリテーションとか、音楽練習とか、実用的なものに研究が応用されることは大いに意義がありますよ。でも、純粋に何か変な感じとか、刺激を受けたときにそれに逆らおうとすると何か拮抗してしまうとか、ああいう感覚はやっぱり面白いです。

真鍋 ── じゃあ、スタート地点は意外と近いのかも。

暦本 ── かなり近いです。面白さから実用に着地するものが生まれると思うんです。最初から実用化ばかり考えて研究すると、あまり発展性がありませんから。暦本研でやっている研究は、ネコのライフログ「Cat@Log」*14とか、ヘリコプターにジャックインする「Flying Eyes」*15とか、ほとんど「ドラえもん」的な発想が多いですね。実用的な説明もできるのですが、本音は「これは面白い!」という好奇心が出発点です。

[デモ] Flying Eyes

真鍋 ── 研究を始めるとき、実用的にどう落とし込むかあまり決めないという感じですか?

暦本 ── 最初はそうですよ。ネコのライフログでは、首にカメラが付くのでネコ視点の映像が撮れます。ずっと見ていると、自分が体外離脱して動物になった感覚が得られたんですね。それの次は何をしよう、とみんなに聞いていくと、鳥になりたいとか魚になりたいとか言うので、じゃあ、ヘリコプターがあるので鳥になってみようかな?という着想が研究の発端になります。

空撮のコンテンツ撮影に使える、災害地にジャックインして飛んでいける、といった解説もするんですが、最初は「未知の体験を作りたい」という気持ちからです。

真鍋 ── 僕は空中で何かを光らせたり、形を作ったりすることにずっと興味を抱いていたので「particles*16」という作品を作りました。巨大なスペースワープみたいなものですが、ボールの明滅を無線で制御しているんです。

particles
[画像] Particles
http://www.daito.ws/work/particles.html

暦本 ── 1個1個のボールがリアルタイムでどこにいるか計っているんですね。

真鍋 ── そうです。17個のチェックポイントがあり、チェックポイント間の通過時間から速度を計測し、位置を求めています。それぞれのボールの中にはワイヤレス通信モジュールXbee、フルカラーLED、そしてチェックポイントで赤外線を受光するためのセンサーが入っています。ボールがチェックポイントを通過する際に受光する赤外線の信号は光ファイバーを通して送信していて、17箇所でそれぞれ異なります。暦本研のヘリの研究につながると思いますが、今度はウィンチモーターやフライカムを使って何か空中で展開する作品を制作したいという目標があります。

フライカムというのは、よくスタジアムの頭上で観客を撮る装置としてワイヤーで吊って移動しながら撮影しているあのカメラです。ハードウェア側で難しい制御があって、ソフトもかなり高度なもので、OSから作っているようなものもある。安全性もかなり要求されるということで、テクニカル的にも面白いチャレンジになると思っているところです。

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