No.002 人と技術はどうつながるのか?
Cross Talk

人間の創造力や行為そのものが、
インターフェースの一部である。

──最後にお二人が考える「インターフェース」、その定義をお聞かせください。

暦本 ── 難しいですね、改めてインターフェースとは何かを問われると。

真鍋 ── インターフェースとは、入力と出力の間にあるものではないでしょうか。僕はセンサーを使ってコンピューターに入ってきたデータを変換して、何かをアウトプットすることが好きなんです。映像を作るにしても、何もデータがない、入力がないところから作る作業はほとんどしたことがありません。だから、何かしらのセンサーの入力を映像や音に変換するとか、そういうことをいつもやっています。そのためには入力と出力の間にインターフェースが存在しないとできません。

──インターフェースとは入出力が行われる、ある種のブラックボックスなんですね。作品を生み出す真鍋さん自身が、インターフェースでもあると。

真鍋 ── そうかもしれません。僕はメディアアーティストとも呼ばれますが、自分では職人芸に近いことをやっていて、それが仕事になっている気がします。ブラックボックスとして変換を行うのは、職人芸の見せどころですから。どんな入力が来てもフィルタリングして、いろいろと変換して、綺麗なアウトプットの光を作るとか、音に変換することにやり甲斐を感じますね。

──暦本さんはいかがでしょう。

暦本 ── 通常は、自分と外界は決まっていて、その間にあるものがインターフェースだとされていると思うのです。でも、人間は、外の世界と接する部分がどうなっているかで、逆に定義されるところがありますよね。

──ファションは一例ですね。着ている服によってコミュニケーションが変わったり、他人とのやり取りで自分の気分が変わったりしますから。

暦本 ── ええ。まさに一番のポイントは、インターフェースを作ったことによって、人間自身も変わってしまうことなのです。

これまでの研究では、人間という「固定された機能のある者」がいて、もう一方には機械があって、その間の設計だけすればいいと考えられてきました。でも新しいインターフェースが出てくると、それによって人間の方がどんどん変わるはずです。iPadでシュッシュッとページがめくれるようになると、人はああいう操作をどんどんやりたくなるでしょう。

そのあたりが研究者にとっては面白く、難しいところでもあります。インターフェースを作るということで、人間の行為そのものが変化するところまでを含めて、インターフェースを設計することになるのではないかと考えています。

[ 脚注 ]

*1
「Kinect」: "カラダまるごとコントローラー"を謳う、ゲーム機「Xbox」用に開発されたモーションキャプチャデバイス。プレイヤーの位置、動き、声、顔を認識。低価格ながら高い性能を有し、研究者に一大ブームを巻き起こす。その後、Windows向けモデルも発売された。
*2
ライフログ:人間の生活を丸ごと長期間にわたって、映像や音声、位置情報などのデータとして記録するもの。
*3
スタートアップ:アイデアが技術によって具現化され、実際に事業としてスタートしたベンチャー企業。
*4
TK80:NECが1976年に発売したマイコンシステム開発用のトレーニングキット。国内にマイコンブームを巻き起こした。
*5
FORTRAN(フォートラン):コンピュータ史上初となる人間にとっても理解しやすい高級プログラミング言語。1954年にIBMの数学者、ジョン・バッカスが考案。1957年に実用化された。
*6
MSX:米国マイクロソフトとアスキーが1983年に提唱したパソコンの共通規格。その後、この仕様に沿ったパソコンが日本の多くのメーカーから発売された。
*7
PC-8801:NECが1981年に発売した8ビットパソコン。翌年には16ビットパソコンのPC-9800シリーズが発売される。
*8
BASIC(ベーシック):FORTRANの文法をもとにした、初心者向けのコンピュータ言語。1964年にコンピュータ教育用の言語として開発された。
*9
CDJ:パイオニアが発売しているDJ用CDプレイヤー。初代のCDJ-50は1994年発売。
*10
SMPTE:米国映画テレビ技術者協会(Society of Motion Picture and Television Engineer)。映像に関する標準規格などを定めており、それらを単にSMPTEと呼ぶこともある。
*11
IAMAS(イアマス):情報科学芸術大学院大学(岐阜県大垣市)先端的技術と芸術的創造の融合を目指して1996年に岐阜県立国際情報芸術アカデミーとして開学、2001年に大学院設立。現在は大学院に一本化されている。
*12
アラン・ケイ(Alan Kay):米国のコンピュータ科学者。パーソナルコンピュータの概念を「ダイナブック構想」で初めて提唱。1973年にゼロックス社のパロアルト研究所で、ビットマップディスプレイとマウスを備えた試作機「Alto」を開発した。
*13
Alto(アルト):1973年、ゼロックスのパロアルト研究所 (PARC) でアラン・ケイの要請を受けて3ヶ月足らずで作られたコンピュータ試作機。世界で最初のパーソナルコンピュータと言われている。
*14
Cat@Log:ペットコンピューティングのためのウェアラブル・デバイス。カメラやGPS、加速度センサー、無線モジュールなどからなる小型デバイスで、猫の行動を認識。ネットワーク上にアップしていく。
http://lab.rekimoto.org/projects/catalog/
*15
Flying Eyes:自律飛行するヘリコプターにロボットカメラを搭載する暦本研の研究。空中や人間の立ち入れない環境における視覚を疑似体験できる、エマーシブな(=没入感が得られる)システム。
http://lab.rekimoto.org/projects/flyingeyes/
*16
Perticles:石橋素氏との共作。2011年に山口情報芸術センターYCAMでインスタレーション展示された。
http://www.daito.ws/work/particles.html
*17
「Perfume Official Global Site」http://www.perfume-global.com/
*18
GitHub(ギットハブ):ソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービス。米国GitHub社により運営されている。
https://github.com/
*19
Squama:プロジェクト名は、ラテン語で「うろこ」の意。電圧を加えると白から透明になる高分子分散型液晶(PDLC)を使った10cm角のパネルモジュールで壁面を構成。
http://lab.rekimoto.org/projects/squama/
*20
ウムガラス:瞬間調光ガラス。瞬時に透明と半透明を切り替えられる。
http://umu.jp/product/glass/
*21
NaviCam:ビデオで撮影された実空間の風景に、コンピュータの中にある情報をオーバーレイ(合成表示)させる装置。セカイカメラの先祖のような研究だ。
*22
PDA:携帯情報端末の総称。1990年代前半は米アップルコンピュータ(現アップル)のNewton、米パームのPalm Pilotなどが登場していた時代。
*23
Happiness Counter:米国の心理学者・哲学者のWilliam Jamesによる、笑いと幸福の相関理論に基づいた研究。
http://lab.rekimoto.org/projects/happinesscounter/

Profile

暦本純一(れきもと じゅんいち)※写真左
東京大学大学院情報学環教授
ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長

1961年東京生まれ。理学博士。東京工業大学大学院理工学研究科博士号取得。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年よりソニーコンピュータサイエンス研究所、1999年より同インタラクションラボラトリー室長。2007年より東京大学大学院情報学環教授。世界初のモバイルARシステム「NaviCam」、マーカー型AR 「CyberCode」、PSVitaに採用された背面マルチタッチインタフェースなどを発明する。
Wi-Fi電波で位置を推定する技術とサービス「PlaceEngine」など、位置情報とAR技術を核とした新事業を展開するベンチャー、クウジット株式会社の共同創設者でもある。2007年に国際学会ACMよりCHI Academyを授与される。

真鍋大度(まなべ だいと)※写真右
ライゾマティクス取締役
4ncholr5la6(アンカーズラボ)共同主宰

1976年東京生まれ。メディアアーティスト、インタラクションデザイナー。東京理科大学理学部数学科卒業、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。オーストリアのアルス・エレクトロニカでは2009年度審査員を務める。石橋素との共作「particles」で2011年度アルス・エレクトロニカ賞インタラクティブ部門準グランプリ、2011年度文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。
2010年に行われたPerfume東京ドームコンサートでは映像撮影・生成システムや風船爆破システム部分などを担当。やくしまるえつこのミュージックビデオほか、数々のウェブサイトでディレクションも手がける。

Writer

神吉弘邦

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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