人型ロボットの運用には、人間の知恵が必要
ただし、NEXTAGEを導入するだけで、グローリーで稼働している組立ラインをすぐに実現できるかといえば、そうではない。
グローリーがNEXTAGEを購入したのは2010年10月だが、実際にラインを稼働させるまで1年近くを要した。以前からグローリーでは産業用ロボットをラインに導入していたが、NEXTAGEの制御方法はこれらとは大きく異なり、一から制御のためのプログラムを構築する必要があったのだ。
幸いなことに、開発元である川田工業のロボティクス事業部は、グローリー埼玉工場から自動車で1時間程度で行ける場所にあった。両社は緊密に連携を取りながら、共同開発を進めていくことになった。
グローリー側は、組立ラインの構成を考え、各工程で必要になる「ハンド」や「治具」を作る。ハンドとは、アームの先端部に取り付けるアタッチメントのことで、NEXTAGEは行う作業内容や部品に応じてハンドを随時付け替える。グローリーでは、これまで従来型産業用ロボット用にさまざまな形状のハンドを開発していた。治具は、部品の位置決めや固定などに使うための補助的な工具のことである。川田工業は、グローリーからのフィードバックを元に、NEXTAGE自体の制御ソフトウェアや、開発ツールを改良していった。
NEXTAGEは人型はしていても、人間ほど臨機応変に動けるわけではない。実用的なラインを構築するためには、数え切れないほどの工夫が盛り込まれているのだ。
例えば、ある工程から次の工程へと部品を送るために、シーソーのような治具が新たに作られた。1台のNEXTAGEが部品を置き、治具を傾けると、となりの工程へ部品が送られる。次工程のNEXTAGEは、部品が所定の場所にあるかをカメラで認識、あればそれをつかんで作業に入る。周りの環境を整えることで、NEXTAGE間で複雑な情報伝達を行う必要もなくなる。逆に、NEXTAGE間で通信するような仕組みを作ってしまうと、マシントラブルが起こった時にライン全体が止まってしまい、人間が工程を肩代わりすることもできない。
搬送機に乗ったNEXTAGEがいくつかの作業台を行き来するラインでは、ユニークな制御方法が採られている。床には青や赤のビニールテープが貼られており、これをNEXTAGEが画像認識機能でとらえ、搬送機のボタンを押して位置調整するのである。搬送機を移動させるために、特別な誘導システムを用意する必要もない。
工場では、NEXTAGEが治具の特定の箇所を押すと、カシャッと部品が1つずつ吐き出され、ハンドが確実に部品をつまめるようにする治具も使われていた。
人型ロボットを導入した工場と聞けばSF的な風景を想像するが、ラインをスムーズに動かしているのは、こうしたアナログ的な創意工夫の数々なのである。
グローリーは、埼玉工場をマザー工場のひとつとして位置づけている。NEXTAGEの多能工(複数の作業や工程を1人でこなせる作業者)化をさらに進め、夜間にもフル稼働させることで、多品種少量生産を高品質・低コストで実現するのが当面の目標だ。そして、今後は海外工場にもそのノウハウを展開していく予定である。