No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Topics
テクノロジー

伝統技能をバーチャルCGムービーに起こす

工場にある熟練技能以上に喪失が心配されるのが、工芸品などを作る伝統技能である。それらの手工業による技は、職人に弟子入りし、目で見て盗むという徒弟制度で伝わってきた。これが重要なのは間違いないが、客観的に考えれば、あきらかに難易度が高い。技というのは力加減やタイミング、つまり力覚や触覚のバランスであり、それを目で見て理解しようとするから、長い時間がかかってしまう。現場に伝わる暗黙知のなかでも、動きを伴う暗黙知の世界は、仕組みや理論を習得すれば必ずしもうまくできるわけではなく、個人個人で感じ方が違うものを、体験として蓄積していきながら上達するものだ。

伝承方法の第一段階を、師匠からの直接的な指導だとすれば、次の段階は映像として残すことだ。今では3D撮影による映像を残すことも容易にできるようになり、さらに動きを計測することによってバーチャルCGムービーの製作も可能になっている。

技をデジタル化して伝承する試みに挑んでいる名古屋工業大学の藤本英雄教授(当時。現在は定年退職後、非常勤のプロジェクト教授)は、これを陶芸で行った。

まずは陶芸家の動きを計測する。上半身に3Dモーションキャプチャーを、指にはデータグローブを装着してもらい、実際にろくろで作陶してもらう。その動きを計測することで、腕と手、ろくろの上で回転する粘土が映し出されるバーチャルCGムービーを作成した。CGなので3D化も可能であり、映像の視点を自由に設定することができるので、通常、体の影になってしまうような、難しいアングルからの様子も観察することができる。また、粘土や手を半透明にすることも可能。内側の粘土の動きや、指との接地面の粘土の動きなど、普段は見ることのできない多くの情報を提示することが可能になった。

モーションキャプチャー、データグローブの写真
[写真] モーションキャプチャー、データグローブ
[動画] バーチャルCGムービー

こうした動きを伴う技能の伝承という課題は、文部科学省の「文化資源の保存、活用及び創造を支える科学技術の振興」では以下のように提言されている。

"無形の文化財の伝承に資するため、動作と同時に匠の手にかかる圧力を測定し、映像のほか力触覚も記録して、微妙な力の加減を再現できるような仕組みを開発すること"。

そこで次の段階としては、動きだけでなく、力の入れ方や圧力、すなわち力覚を記録して提示するというフェーズに移っていく。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.