No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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手指の力覚をセンシングして数値化

力覚という感覚を計測するのに重要になってくるのが、センサーである。人間の五感に対応する形で、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚と、それぞれのセンサーは研究開発が進んでいる。そのなかで、技を計測するのに必須なのが触覚である。五感のなかで唯一双方向性を有する感覚情報であり、他と違って触覚に付随して力覚という側面もあるので情報の保存・再生がより複雑になってくる。まずは力覚の事例を見ていく。

1970年ごろから日本国内でも産業用ロボットが稼働し始めた。当時から人間のような動きを再現して作業するロボットが望まれていたが、力覚センサーはまだ大きな研究テーマであった。開発が進むと、センサーは産業ロボットにも組み込まれ、人間の感覚に近い力加減による組み立て作業などが可能になった。さらには手指のような形をもつロボットにも力覚センサーは組み込まれるようになり、物体をその形状に合わせてしっかりと持つことも可能になってきている。

前出の藤本英雄教授は、陶芸家の力覚を計測した。コテやヘラなどの道具を使用する場合には、道具に力覚センサーを搭載すればいい。しかし素手の場合、人間の指は柔軟物であるので、粘土に接すると変形してしまう。そこで、作陶時の動作を阻害せずにデータ計測できるように、指先に小型の感圧導電性エラストマーセンサーを貼り付け、力覚をセンシングした。

人差し指と親指で粘土を挟み、粘土を引き上げる動作の力覚を計測。変形前後の粘土の形状や、水分量による粘土の硬さなどは毎回変化するので、適切なパターンを計測することは難しいが、以下のことがわかった。"親指と人差し指の操作力のバランスが良いと、きれいに変形すること"、"粘土の厚さが薄く半径が大きくなると、小さな操作力でも容易に変形すること"、"変形が偏ると、ろくろの回転と同期した操作力の乱れがみられること"、"初心者は、力のバランスやタイミングが悪いこと"。これらは暗黙のうちに理解していることのように思えるが、力を計測して、数字化/グラフ化したり、CGムービーに載せて絵で見せることが可能になったことで、課題がより明確になるだろう。

感圧導電性エラストマーセンサーなど計測の様子の写真
[写真] 感圧導電性エラストマーセンサーなど計測の様子

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