No.008 特集:次世代マテリアル
連載03 変わるモノづくり産業のビジネスモデル
Series Report

従量課金が可能なインダストリアルインターネット

モノづくりの世界で従量課金制を導入しようとするなら、装置が稼働し続けていなければ料金を徴収できない。つまり、故障は許されないというわけだが、これはいかにもハードルが高く、実現は容易ではないと思われていた。しかし、最近、10年間は故障なしで装置を稼働させるという技術が登場した。これが米国GE(ジェネラルエレクトリック)の提唱したインダストリアルインターネット(Industrial Internet)である(図1)。

GEの提唱するインダストリアルインターネットの図
[図1] GEの提唱するインダストリアルインターネット
サービス時間はタービンやエンジンが1年間サービスを提供できる時間、評価価値はそれによってもたらされるサービス価値の金額、をそれぞれ表している。

インダストリアルインターネットでは、風力発電のタービンや、航空機のエンジンなど巨大なシステムにIoT(インターネットオブシングス)端末と言われるセンサモジュールを取り付け、稼働状態を常時監視する。正常に動いている時は、センサからの稼働信号に変化はない。もし、いつもと異なる信号を検出したら、タービンやエンジンに不具合が生じたと判断する。そのような場合、どのIoT端末の部分なのかが即座にわかるため、エンジニアはその部品やセンサを交換する。装置が保守検査などで休んでいる時に交換作業を行えば、事実上のダウンタイムはゼロになる。これがGEの考え方である。

この考えこそ、IoT時代に能力を発揮する概念だ。部品の常時監視は、インターネットを通して、工場から遠く離れた本社やサプライヤのオフィスでも行うことができる。数多くのIoT端末は全て直接インターネットにつながっている必要はない。端末から端末へデータを転送し、最後にゲートウェイ(ルータのような働きをする)を通してインターネットにつなげばよい(図2)。このようなメッシュネットワークだと、IoT端末すなわちセンサ端末がインターネットに直接データを送る必要はないため、消費電力をセーブできる。もし各端末が全てインターネットに直接つながっているなら、消費電力は膨大になり、またモバイル通信トラフィックは混雑してしまう。

IoTネットワークシステムはゲートウェイを通してインターネットへデータを送るの図
[図2] IoTネットワークシステムはゲートウェイを通してインターネットへデータを送る 出典:MEMSIC

インダストリアルインターネットでは、タービンやエンジンは実質的なダウンタイムがゼロであるため、例えば10年間無故障で稼働させることができる。となると、タービンなら何キロワット発電すればいくら、ジェットエンジンなら何マイル飛んだらいくら、という料金設定ができる。いわゆる従量制である。これなら、タービンやエンジンは売り切りの製品でなくてもよい。使うたびに料金を徴収できるから、それらを納入する時の価格は安く設定することもできる。

最近ではこのような方式を予防保全と呼ぶこともある。従来のメンテナンスだと定期的に検査しなければならない。エレベータやエスカレータなどのメンテナンスの時は、それらを必ずストップして点検する。ここで稼働していないダウンタイムが発生する。しかし、予防保全では予め故障が起きやすい個所を見つけるため、実質的にシステムを休ませている時に部品などを交換すればよい。だからダウンタイムはゼロになる。

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