No.008 特集:次世代マテリアル
連載03 変わるモノづくり産業のビジネスモデル
Series Report

IMECとセマテック

これらの日本のプロジェクトコンソーシアムに対して、海外では成功例が2件ある。ベルギーのIMECと米国のセマテック(SEMATECH)である。IMECは、米国のスタンフォード大学で研究していたロジャー・ヴァンオーバーストレーテン教授が帰国後、欧州に半導体の研究所を設立する必要性を強く感じ、フランダース政府に働きかけて、1984年に設立された。今や世界の数十ヵ国、600社以上の企業と研究しています。日本のルネサスエレクトロニクスや、パナソニックとも共同研究を行っていた。毎年フランダース地方政府からの予算と、共同研究する民間企業との資金で運営している。当初はフランダース政府の予算金額が多かったが、最近は15%程度にとどまっている。

共同研究から生まれた企業も出ている。IMECからスピンオフして起業した会社は28社あり、数千人の雇用を生んだとしている。これらのベンチャーの内、有望な企業は買収され、今やアーム社やシノプシス社、華為技術社などの一部になっている企業も出てきている。開発した技術を使って商品化したいと思う研究者、技術者は起業する傾向があるのだ。

また、セマテックは、米SIA(半導体工業会)が中心となって1987年に設立された。1980年代後半は図2に見られるように日本が世界の半導体のトップにいた頃だ。米国の半導体大手はロビー活動を仕掛け、米国にも日本の「超LSI研究開発組合」と同じような組織を作って対抗しようとした。しかし、ここには米国の大手半導体メーカーしか参加できなかった。参加費が高かったため、「金持ちクラブ」とベンチャー企業から陰口をたたかれた。この組合は10年程度続いたが、連邦政府は資金提供を止めた。このためセマテック株式会社は、International SEMATECHと名を変え、海外の半導体企業や製造装置企業などを募った。韓国のサムスンなどが加わり、現在に至っている。今はセマテックから起業した会社も増えているという。

セマテックが機動にのった要因は、アジア企業の台頭を敏感に感じ取り、研究テーマを「低コスト技術」の開発にフォーカスしたことだ。利益率(売り上げに対する利益の割合)が30~40%と高いインテルやテキサス・インスツルメンツなどは、安い製品を作らないが、低コストで製品を作り高い付加価値を付けて売ることに専念する。そのため、低コスト技術の開発は、市場にとって必要不可欠な課題であったのだ。しかし、1990年代終わりごろ、日本の半導体トップに低コスト技術を開発しないのかを問い合わせると、決まって「安物は作らない」という返事が返ってきた。当時は、残念ながら、低コスト技術が理解されていなかったのである。

2004年頃、ある米国人アナリストは、「インテルが大量生産しているチップの平均単価は40ドルだ」と語った。対して、日本の半導体メーカーの量産品の平均単価は1.5ドルだった。インテルが低コスト技術を開発しながらこれほど高価格のチップを量産していたのに対して、日本は低コスト技術を開発せずに安いIC製品を作っていたのである。これでは勝負にならない。

当時も今もそうだが、日本のコンソーシアムのテーマが「低コスト技術の開発」になったことは未だにない。日本では常に「高価な最先端の微細化技術」が主題にあった。米国の「高付加価値の製品を安く作る」というポリシーを理解できなかったことも、日本が苦戦を強いられている原因ではないだろうか。

今後の日本の半導体産業には、IMECやセマテックのようなビジネスに直結する組織作り、経営を学び、新しいビジネスモデルを生み出していくことが、求められてくるだろう。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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