No.008 特集:次世代マテリアル
連載03 変わるモノづくり産業のビジネスモデル
Series Report

第3回
世界と互角に戦うための方策

 

  • 2015.04.30
  • 文/津田 建二

これまで、世界の半導体やIT産業ではさまざまな新しいビジネスモデルを生み出し、半導体製造の分業化が進んでいることを述べてきた。では、日本が新しいビジネスモデルを構築し、世界の半導体産業と互角に戦うにはどうすればよいか。この3回目はその答えを求めて、日本と世界との大きな違いを3つ紹介する。起業家精神、企業の自立性、コンソーシアムのあり方について、それぞれ触れたいと思う。

起業が少ない日本

日本の半導体が世界と大きく異なっている点の1つに、市場経済マインドが乏しいことが挙げられる。"起業"という視点が、半導体産業にはほとんど見られないのだ。1990年代には、東芝から独立した飯塚哲哉氏が設立したザインエレクトロニクス、三菱電機からリコーに移りさらに独立した進藤昌弘氏が設立したメガチップス、NECから独立した杉山尚志氏が設立したリアルビジョンなどが誕生した。しかし、2000年以降は大手から独立して起業するという会社は少なくなってしまった。

日本で起業する仕組みは、実はいまだに確立していない。ザインの飯塚氏は自身の資金を供与し、メガチップスの進藤氏は資本金1000万円で起業した。メガチップスが株主に向けて発信している小冊子「MCC IR」vol.4によれば、「創業当初のメガチップスは、オフィスが借りられず、パソコンを抱えて公民館を転々としたり、銀行口座開設を断られ、ベンチャーならではの苦労も味わった。手持ち資本はわずか1,000万円。資金流出を抑えるため、最初の3年間はユーザーの個別仕様に合わせたICを前金制で受託開発するビジネスに集中し、じっくり体力を蓄える。続く6年間で自社製品を中心とした事業構造へと徐々にシフトしていき、創業10年目に株式公開をめざす。創業メンバー7人で描いたこの"成長のシナリオ"を実現 すべく、メガチップスの挑戦が始まった」と記述されている。

90年代に設立されたこの3社は現在も事業を継続しており、なかでもメガチップスは世界のファブレストップ25社に入っている(図1)。これは数少ない起業の成功例であるが、2000年以降は目立った起業は出ていない。一つには出資者が極めて少ないことが挙げられる。日本のVC(ベンチャーキャピタル)と言われる企業が、起業時に出資することはまずない。増資の時に出資するだけだ。いわばファンドは日本にいるが、VCはいないといってよい。VCは起業時に出資しなければ起業家にとって意味はなく、ファンドに等しい。いわゆる米国のエンジェル(創業間もない企業に対し資金を供給する富裕な個人投資家)のような出資者がいないことも、起業しにくい要因になっている。

世界のファブレストップ25社の図
[図1] 世界のファブレストップ25社 日本企業はメガチップスのみ 出典:IC Insights

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