No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

材料探しに加え、微細構造の作成法が重要に

──圧倒的な成果ですね。研究していた時点で、目指す材料の見通しはあったのですか。

それまでの研究室で着々と積み重ねてきた実績を引き継ぐことができて、とても運がよかったと思います。開発した材料の基となる窒化ガリウムと酸化亜鉛はいずれも、バンドギャップ*4が大きく、可視光を吸収しない白色でした。しかし、さまざまな論文を読み下していく中で、亜鉛を含んだ酸化物では、含まない酸化物よりも、バンドギャップが縮まる(色がつく)ことを知ったのです。窒化ガリウムと酸化亜鉛は結晶構造が同じであり、結晶学的には混ぜることができることは分かっていました。そこで、これらを混ぜるとバントギャップが何らかの理由で縮まるのではないかと考えたのです。このアイデアは、まだ試されていなかったので、試したところ、思ったとおり黄色に色づいた物質ができたのです。

──それ以降はどのような研究をしてきたのでしょうか。

変換効率を上げるためには、なるべく長い波長の光まで吸収できるようにすることがポイントになります。見つけた材料は、黄色で波長が500nmまでの光を吸収できましたが、実用化を見据えれば不十分です。そのため、以降も材料探しを続けました。その後、例えばバリウム、タンタル、ジルコニウムを混ぜたオキシナイトライドを作れば、700nmまでの波長の光を吸収できることが分かりました。現在は、それ以上に長い波長の光を吸収できる材料を、新たに探索しています。さらに、長波長まで吸収できる材料を、水の分解に向けて使いこなすための技術も研究しているところです。

──光触媒材料を使いこなす技術とは、どのようなものなのでしょうか。

光触媒材料の潜在能力を引き出し、水の分解を起こしやすくするためには、1個の粉粒の中で、光を吸収する部分と電極となる部分を別に作る必要があります。そのため、粉粒とは別の物質を粉粒の表面に重ね、電気分解の電極となる部分を作るのです(図5)。これは、電子機器で使われている半導体デバイスの微細構造を作る技術に似ています。つまり、物性を改善する新しい材料探しだけではなく、粉粒の構造を設計し、作り上げる必要もあるわけです。具体的には、例えば電極となるロジウムのナノ粒子を、発生させた水素と酸素が水に戻ってしまうのを防ぐ酸化クロムの殻でコーティングし、光触媒材料の表面に形成しています。

粉粒の表面に電極を形成
[図5]粉粒の表面に電極を形成

私が研究に参画した当初の技術では、こうした工夫はできませんでしたが、2006年頃に構造の工夫による変換効率のジャンプアップがありました。今は、半導体デバイスのプロセス技術やナノテクなど、微細構造を作り出す技術が発展していますから、さらなる飛躍が期待できます。

異分野連携で、新しい可能性につながる扉を開く

── これからの光触媒の研究では、異分野の研究開発の成果を活用していくことが重要になりそうですね。

そのとおりです。研究は、異分野の研究を融合し、学際的になっています。現在、私は理学院化学系の研究室に在籍しているのですが、この研究環境自体が学際的であると言えるでしょう。

同じ研究室の石谷治教授の専門は錯体(さくたい)*5化学です。石谷教授の知見を光触媒に生かし、半導体と錯体を組み合わせることで、可視光をギ酸へと変換できることが分かりました(図6)。ギ酸は、触媒を使って分解すると、水素と二酸化炭素になります。この特徴を生かして、水素を運搬するためのエネルギーキャリアとして利用する検討が進んでいます。二酸化炭素は、光触媒と錯体の組み合わせでギ酸に戻せますから、とても効率的な利用ができます。

錯体化学の知見を合わせて、新しい可能性を開く
[図6]錯体化学の知見を合わせて、新しい可能性を開く

また、窒素と炭素で作られた有機半導体を、光触媒材料として利用する研究も始まっています。ガリウムのような貴重な元素を含んだ光触媒材料を、植物が生育している面積と同様の規模でばらまくことはできませんが、有機半導体を使った光触媒材料なら、貴重な金属を一切含まないため、コストに関する心配はなくなります。

[ 脚注 ]

*4
バンドギャップ: 原子に取り込まれた電子(価電子)のエネルギー状態と、自由に動き回れる状態の電子(伝導電子、自由電子とも呼ぶ)のエネルギー状態の間には、電子が存在できないエネルギー状態がある。この部分をバンドギャップと呼ぶ。半導体が光を吸収して、起電力を得るためには、価電子を吸収した光エネルギーで、伝導電子へと押し上げる必要があるが、バンドギャップが大きすぎると、大きな光エネルギー(波長の短い光)しか吸収できなくなる。
*5
錯体(さくたい): 金属イオンに、配位子と呼ばれる非金属の分子やイオンが結合したもの。金属化合物や有機化合物とは異なる特徴的な性質を持つため、触媒としての活用や、光学的な特性や電気・磁気の特性を生かした研究が活発に進められている。

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