No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
Scientist Interview

── 研究のアイデアの引き出しがどんどん増えて、さらなる進展が期待できそうですね。

物性だけではなく、構造の要素が入ってくると、新たな可能性が出てくる楽しみがあります。その一方で、起きる現象が複雑にもなってくるので大変ですが……。現在、私が在籍しているのは理学の分野なので、そこを学理として体系化できればと考えています。

また、水の分解に向けた光触媒材料開発のゴールとして、実験室レベルの変換効率を5~10%にまで引き上げる目標があります(図7)。そして、寿命も現在の100日程度から、1年へと伸ばしたいと思っているところです。オキシナイトライド系の光触媒は、長時間使っていると、光エネルギーによって発生した電子とホールの対ができ、水の分解に使われずに材料中の窒素を酸化してしまいます。すると表面が壊れて寿命が尽きてしまうため、こうした現象を抑制する技術の確立は重要です。さらに、チタンや鉄など地球上にたくさんある金属からなる物質や、金属を含まない物質で、安価な光触媒材料となるものを見つけていきたいですね。

光触媒技術には、まだ伸びしろがある
[図7]光触媒技術には、まだ伸びしろがある

大きな可能性を秘めた技術、研究の輪を広げたい

── 既に、実用化に向けて動き出した企業はあるのでしょうか。

すでに述べた東京大学や東京理科大学のグループに、三菱化学や住友化学などが共同で設立した人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が加わり、2013年度までは経済産業省、2014年度からはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとして、実用化を目指した開発が進行中です。ここでは材料の開発のほか、化学工学的にどうしたら水素をうまく集められるのか、また酸素を分離する効率のよい方法などの研究をしています。

こうした活動が成果を上げたあかつきには、産業界に与えるインパクトは絶大なものになると思います。ただし、投資効果がはっきり見えにくい研究なので、参入する企業が続々と現れるといった状況ではありません。

── 世界的に見て、この分野での日本の研究レベルは、どのくらいに位置するのですか。

確実にトップレベルにあります。材料開発には忍耐が必要ですから、日本人には適していると思いますよ。変換効率は短期間で劇的に向上するわけではありませんから、プロジェクトを率いるリーダーの確かな眼と忍耐が求められます。後は、もっと研究者が増えると、研究は加速するでしょう。多くの研究者や企業が参入したいと感じる、打ち上げ花火のような成果がでることが望ましいですね。

前田 和彦(まえだ かずひこ)
 

Profile

前田 和彦(まえだ かずひこ)

東京工業大学理学院化学系 准教授

1979年生まれ。2007年東京大学大学院工学系研究科博士後期課程を半年短縮して修了し、博士(工学)の学位を取得。東京大学、米国ペンシルベニア州立大学博士研究員を経て、2009年東京大学大学院工学系研究科助教に着任。2012年8月より現職。この間、科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任(2010〜2014年)。専門は、無機固体化学、半導体光触媒、ナノ材料。エネルギー変換型光触媒の研究に一貫して取り組み、独自に開発した酸窒化物系光触媒を用いることで、可視光による水の水素と酸素への直接分解に世界で初めて成功。最近では水分解光触媒の研究開発に加えて、二酸化炭素固定化のための金属錯体/半導体融合光触媒に関する基礎研究も推進している。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表。

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

http://www.enlight-inc.co.jp/

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