No.002 人と技術はどうつながるのか?
Topics
テクノロジー

スイッチと感覚

この豊富なヴァリーエションは、スイッチにとって最も大切な、「操作を間違えないこと」という要請によってもたらされる。
操作用スイッチは、人間が主に手を使って、オン-オフの切り替えや回路の変更を行なうインターフェイスであるが、その操作を間違えないために、様々な表示や色、形、そして操作感が必要とされるのだ。

人間が操作を間違えないために、まず必要になってくるのは、機械の状態を確認できること。そのために、「色」が重要な役割を果たしている。オンの状態なのかオフなのか、どの回路に電流が流れているのかなど、ステイタスを一目で確認できるよう、スイッチには様々な色が付いている。"OFF"や"STOP"を示すのは赤、"ON"の状態は青や黄色などで示され、色の感覚に訴えることで、状態の視認性を高める工夫が施されているのだ。

次に重要な要素が「音」。押した時に"カチッ"という音がするスイッチは、その音で、回路が切り替わったかどうかを無意識のうちに確認することができる。ちなみに放送機材や音響機器など、音に関してシビアな現場では、無音のスイッチが求められることもあるという。

最後に、スイッチの設計においてもっとも重要な要素が、「操作感」という感覚的な領域のデザインだ。スイッチをどのぐらい押して、どのぐらいの抵抗感がフィードバックとして戻ってくるか、これが操作感の決め手になり、機械のステイタスを確実に実感することができるようになる。

ちなみに、スイッチをどのくらい押すか、その深さのことをストロークというが、スイッチの押し心地のバリエーションは、このストロークによってうまれる。面白いことに、同じ機械でも、国が違うと求められるストロークが変わってきたりすることもあるという。たとえば音響放送機器のスイッチでは、欧米用の機器ではストロークが4.5mmだとすると、日本は3.5mmくらい、といったような違いがあるのだ。指の大きさだけの問題ではなく、日本は欧米に比べて浅いストロークが求められるのだという。

このように、機械の操作を間違えないように、視覚や聴覚、そして触覚などの五感に訴えることが、スイッチの膨大なバリエーションを生み出しているのである。

液晶ディスプレイ付きスイッチ
[写真1] 液晶ディスプレイ付きスイッチ

スイッチの未来

技術の方向性として、スイッチにはどんな未来が待っているのだろう。

大きな方向性としては、モバイル機器に使われるタッチパネルのような触るものと、 確実に押したことがわかる押ボタンスイッチに2極化していくのではないかと思われる。

スイッチを巡る状況としては、創刊号のTopics記事「超伝導直流送電は電力網に革命をもたらすか?」で紹介したテーマである直流電源の導入も、その未来に大きく関わるものだ。交流電源を前提にして設計されたスイッチに比べ、直流用のスイッチは、安全性をより高める必要があり、設計の変更は必須となる。また、環境への配慮という世界的なテーマも、金属材料に含まれる鉛などの有害物質の使用が制限されることで、使用する素材そのものが変わり、今後大きな革新が起こりうる領域となる。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.