No.008 特集:次世代マテリアル
連載03 変わるモノづくり産業のビジネスモデル
Series Report

複雑だからこそ最良の相手と組む

半導体産業の中で、どのツールを使い、どの装置を使って製造するのか、日本の企業だけにこだわっては選択肢が狭くなる。しかも自社開発するとなると競争相手よりも出遅れてしまい、ビジネス機会を失ってしまう。半導体産業はまさにグローバルに分業化することが勝利の方程式になる。

かつての電子産業において、グローバル化とは日本で製造販売している最終製品を海外に売ることだった。今は全く違い、優れたパートナー企業と提携することがグローバル化になっている。特に半導体の世界では、装置、ツール、IP、サービスなどのサプライチェーンでどこの何が最も性能が良く、機能が充実しており、手ごろな価格で提供しているか、を調べ採り入れることがグローバル化のカギとなる。もはや日本の企業だけにこだわっていると、世界から遠く引き離されてしまう時代に入っているのだ。

分業で提供できるエコシステム

半導体の世界では、どのような分業ができているか、CPU回路だけに特化している英アーム社を例に見てみよう。

アーム社は、IP(Intellectual property:知的財産)と呼ばれるIC内の一つのCPU回路だけ(CPUコアという)に特化している。そのCPUコアの直接の顧客は半導体メーカーが多い。半導体メーカーにCPUコアをライセンス供与するビジネスだ。半導体メーカーは提供されたCPUコアを使ってSoC(システムオンチップと呼ばれる複雑なIC)を設計する。

CPU基本回路に特化するアーム社は、顧客ごとに個別にカスタマイズする仕事や、必要なツールを開発する仕事はパートナー企業に任せ、自社では未来のCPUコアの開発に特化している。だからこそ、新製品が出た時にある程度外部にも情報を公開し、協力者を募る。また、顧客である半導体メーカーが作るSoCに組み込んだCPUコアが期待通りの性能や機能が得られるかどうか、実証しなければ顧客は逃げていく。そこで、IC製造専門のファウンドリ提携・協力し、自ら提供するCPUコアが先端プロセスでも確実に動作することを実証している。

パートナーが多い企業が勝つ

アーム社だけではない。半導体メーカーそのものが多様なパートナー企業と組むことが、性能・機能の優れた製品を早く安く作るために欠かせなくなっている(図5)。パートナーとのコラボレーションやアライアンスをいかに持っているかが成功のカギとなるのだ。

半導体の周辺に関係する様々なパートナーと組むことが成功につながる図
[図5] 半導体の周辺に関係する様々なパートナーと組むことが成功につながる

例えば、「マイコン」においてルネサスエレクトロニクスが強いのは、独自のエコシステム(企業間の経済的な連携の仕組み)を持ち、多くのパートナーと一緒に製品を開発しているからだ。自社でソフト開発やツール制作も手掛けるメーカーは、製品を増やすことができず、ビジネス規模は小さいままで終わってしまう。ではどうやって、ビジネスを伸ばしていくべきか、すでに世界には手本がある。連載の最終回は、世界の勝ち組のセオリーがソリューションビジネスに向かって、実行していることを展望する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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