No.008 特集:次世代マテリアル
Cross Talk

光通信分野への応用。

富永 ── 光は特に通信が有力な応用分野です。超格子構造に使われているGeSbTe材料はちょうど光通信に使われる波長帯(光通信では1.3µm帯と1.55µm帯を利用している。どちらも光ファイバ内の損失が少ないため)では吸収がありません。例えば、慶應大学では通信に使おうと研究しています。これからは光記録ではなく、損失の少なさを利用した光通信に使われる可能性があります。

知京 ── 熱電材料ができて磁気センサもできるとなるとバイオ(生体)関係にも応用できるのではないでしょうか。例えば、皮膚に張って発電させて、磁気センサを利用してヘモグロビンの量を計測できて血液の流れを計測できて、バッテリレスで自己診断をできるようになるのではないでしょうか?

富永 ── 今の血圧計は、測定するために腕を絞めないと測れないですね。しかし、磁気センサが高度化すると、腕を絞めないですみ、例えば血圧を指先で測れるようになります。そうすれば24時間連続、血圧のモニタリングができますね。今は心臓のモニタリングや体温測定ができますが、さらに血圧の24時間モニタリングができれば、いつどのような状況では気をつけるべきだという医師の指示が出せるのではないかと思います。

知京 ── そのような無線チップを張りつけていると、病院へ行かなくても家庭において、病院とインタラクティブに健康管理ができるようになりますね。医師側はそれをモニタできる環境にいて、患者の心臓に異常が見つかれば、今日、来院してくださいというような指示も出せるようになれますよね。 実際、この材料はフレキシブル基板に使えるのでしょうか?

富永 ── いまはプラスチック基板に付ける研究もあります。 元々光ディスクはプラスチック基板を使っていましたから、なじみはあると思います。

今はシリコンフォトニクスで光通信ゲートを作っていますが、ここに相変化素子を使えばまるで違うものができるのではないかと思います。10数年前に、最初にGeSbTeを使って光通信ゲートを米国のチームが作ったのですが、その後ずっと静観されていました。今またこの研究に人気が出てきています。

知京 ── 世の中の情報量の爆発的な増加が今やってきたからではないでしょうか。世の中の情報量が急増し、通信トラフィックがパンクしそうになる状況はこれからも続くでしょう。もっと通信のデータレートを上げる必要がありますが、その場合、消費電力を下げることが必須となります。

富永 ── 結局、シリコンデバイスは光で制御して電気に変えて処理しています。光電変換材料と磁性材料、電気材料が同じものなら、光特性、電気特性、磁気特性を同じ材料で独立に制御できるため、それぞれの変換器が要らなくなります。

知京 ── しかも消費電力を削減できます。

富永 ── 直接同じ材料で制御できれば、消費電力を下げることができます。資源的な問題に対応し、デバイスを小さくできるのではないかとも思います。

SbやTeのような材料そのものは豊富にあるのか?

富永 ── 地球上には十分にあります。中国以外の鉱山で発掘していないだけで、地球上には豊富にあります。

知京 ── 日本の鉄鋼メーカーはスラグと呼ばれる製鉄時に出来る廃材の中から有効なモノを取り出そうとしています。技術的にはもう取り出せるのですが、問題はコストです。どれだけ安くできるかであり、今はたまたま輸入する方が安いから輸入しているだけです。元々は、日本でも、亜鉛の副産物としてインジウムが採れました。かつての日本はインジウムの最大の産出国でした。その亜鉛の鉱山が閉山したためにインジウムが生産できなくなったのです。いわゆる廃材の中から有効な元素を回収するようなシステムができれば、資源の問題はリサイクルによって解決できるはずです。

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